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神様と霧と絵と警察 – Quito, Ecuador

朝からパソコンの調子がすぐれず、TIAで買っておいたグラノーラにミルクを入れて朝食をとりながら、日本にいるパソコンの神様とスカイプで話をする。

神様は、出張で東京から名古屋に来ていて、ちょうどスマートフォンのスカイプでコンゴと仕事の話をしていたという。便利な世の中になったものだ。

神様のアドバイスを実現させるべく、Estacion Seminario Mayor駅にほど近いComisariato del Computadorというパソコン専門店を訪ねることにする。

宿のあるサン・ドミンゴ駅から少し歩いてPlaza del Teatro駅まで行く途中で、チョココロンにたっぷりとクリームの入ったパンをかじる。

昨日は閉まっていたサン・オーグスティン教会が扉を開けていたので、中に入る。おだやかな日差しの入る教会内にいるのは、数人だけである。

Plaza del Teatro駅からAlameda駅までトロリーバスに乗り、そこからBasilica教会の見えるSanta Prisca駅まで歩いてメトロバスに乗り換えて、Estacion Seminario Mayor駅に向かう。

Comisariato del Computadorにもまたキトのパソコンの神様がいて、その太い手で、乱暴にみえるも勝手知ったる様子で、パソコンを開けたり、かちゃかちゃといじったりしている。この店のオーナーで、開業15年だという。

二人の神様にお世話になり解決策を模索した後、タクシーに乗って、Bellavista地区にあるグアヤサミンのThe Capilla del hombre(人類に捧げる礼拝堂)を訪ねる。洒落たレストランや店が並ぶAv.Gonzalez Suarezを走り、マチャンガラ川を渡り、霧のたちこめる丘をあがっていき、礼拝堂に到着する。

オスワルド・グアヤサミンは、1919年から1999年を生きた、先住民族の血をひく、キト生まれの画家である。人類、ラテンアメリカの人々の苦しみに捧げられたこの礼拝堂は、1995年から建設が始まったものの、彼の死後2002年にようやく完成することとなった。グレーの石で造られた四角の2階建ての礼拝堂の真上にでっぱりがある。

閉館時間をやや過ぎていたものの、なぜか入れたものだから、すでに1階は電灯が消されてうす暗く、ほかの客がいない。霧に包まれた柔らかな光だけが外から入り込む館内で、大きく、圧倒的な力をもつ作品と対峙する。

「Mural de la miseria」には苦しみに満ちた人々の表情や手のひらが描かれ、「Mural los mutilados」には骨の透ける人々が手を挙げている様子が描かれ、「Playa Giron」では、人々が頭を抱え、「La Familia」では人々が身体を寄せ合っている様子が描かれている。

「El Mestizaje」では、落ち着いた黄色と青を使って描かれた一人の女性が目を閉じ、唇をうっすらと開けて、大きな手のひらをこちらにかざしている。オリジナル作品を観る意味が、ここには確実に、ある。

外からみた建物上のでっぱりの内側には、黒い背景に白く痩せた人々が細い腕を上げながら、幾人も重なりあっている様子が描かれている。2階から1階まで吹き抜けになっており、1階の赤く塗られた円が外からの光を受け止めている。

礼拝堂は霧に包まれては薄れ、また深い霧に包まれていく。裏の民家や林もうっすらと霧に包まれていき、そのうちに、辺りは鳥のなく声ばかりになる。空港に向かう飛行機が、濃くたちこめる霧の中でその音だけを時折響かせていく。

静けさに包まれたThe Capilla del hombreを後にして、宿のほうへと戻る。フルーツを買おうと小さな商店に立ち寄る。見たことのないフルーツについて説明を聞いていると、いくつかの果物をさして、今が一年に一度の旬です、と言う。スモモと小さな梨を買うことにすると、Taxoというフルーツをあげます、と言って、差し出された。そして、一つ試してごらんなさい、と皮をむいてぽんと置いてくれる。

その後も子どものAlexisくんとAndresくんと日本語についてなど話をしていると、今度は子どもたちからのプレゼントでマンゴーを差し上げます、と言って、また手のひらにぽんと包んでくれた。

そのうちに今度は警察官だという旦那さんが現れ、同じ警察官だという同僚の男性が、家に帰る途中にトロリーバスの駅まで車で送ってくれるという。車は新しいシボレー車であり、支給されているものだそう。静かでスムーズな運転さばきをみせる。

政府のためにキトの情報を集めるコミュニケーション部門に属しているということで、警察になってもう10年ほどだという。キトはトロリーバスなどができてから、街も大きくなり随分と変わったのだそう。治安も15年ほど前と比べると大きく改善されたようで、かつてエクアドル全土で1万2千人だった警察官が、現在ではキトで1万6千人、エクアドル全土では4万3千人にもなるという。

商店の辺りもまた徐々に霧に包まれ、電灯が橙色ににじんで見える。

送ってもらったCuero y Caicedo駅からトロリーバスに乗る。もうすぐ8時を回ろうとしていた。この頃には、やはり旧市街のほとんどのレストランは、容赦なく丁寧にその扉を閉めている。

そこで宿の一つ手前のPlaza Grande駅で降りて8時閉店のスーパーTIAに再びすべりこむ。TIAにも、野菜や果物をいくつか売っている店と、鮮生品は一切置いていない店がある。すべりこめたTIAにあった食料で、シーチキンとソーセージのパスタに、レーズンと、バナナの葉で巻いてあった細いチーズを添えて、Pilsenerビールと合わせていただくことにする。

今日も夜中を過ぎても教会の鐘がなっている。