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ブエノス・アイレスという街 – Buenos Aires, Argentina

朝目を覚ますと、バスは既に大都会に入ってきていた。朝日がオレンジ色に光を放つ中、ビルは高く伸び、鉄道はまっすぐに引かれている。色鮮やかな建物の並ぶボカ地区ではごみ収集が行われ、朝の空気に包まれている。各国で見かけたClaro社も、ここではひときわ高いビルに赤いロゴをでんと構えている。

コーヒーや紅茶、パイケーキのセットが配られたので、コーヒーミルクを作って、朝食をいただく。

1時間ほど都会らしい風景が続き、バスはくねりくねりと高速道路を走り、7時半にはターミナルへと到着する。

そばの国際中央郵便局で用事を済ませた後、レディーロ駅が面するアルゼンチン空軍広場、サン・マルティン広場と緑豊かな公園を歩いていく。

アルゼンチン空軍広場には、アルゼンチン独立100周年を記念してイギリス政府から寄贈されて1982年のフォークランド紛争のときに標的にもなった英国塔が建っている。塔の前を男性二人が馬に乗って悠々と去っていく。

ふいに人のよさそうな中年の女性が話しかけてくる。「鳩のふんが鞄についてますよ。ほら、服にも。拭いてあげますから、そこに鞄を置きましょう。」

わたしたちそれぞれに男性と女性がついて、同じように黒くついた液体を「拭いて差し上げましょう」と誘われる。見るからに良い人たちで、ふとアルゼンチンの鳩のふんは黒いのだと思ったものの、警戒して、大丈夫なので結構です、とそそくさと逃げる。

サン・マルティン広場には、1812年にアルゼンチンを訪れて南米解放の戦いに向かったサン・マルティン将軍の騎馬像がたっている。晴れた空に、飛行機が何機も飛んでいく。

ブエノス・アイレスは、建物の高さや道の広さ、店の在り方が、東京と似ている。歩いていると、新宿の花園神社近くを歩いている気分になったり、銀座の中央通りを歩いている気分になる。どことなく、似ている。

アルゼンチンでは”y”や”ll”が「シ」という発音になる。インフォメーション・センターの長身男性も優しい笑顔でシャーシャーと言う。

宿に部屋をとって、オーナーに「黒い鳩のふん」の話をすると、このぶっかけ盗難、ここ1年頻発しているのだという。特に土日にこの犯罪は多いといい、「やられましたか」という具合である。緑の多い明るい公園でも、歩いてはいけません、と言われる。

ここアルゼンチンは大統領が変わると、人々の生活が変わるのだという。現在は協同組合寄りの大統領だということで、関わりある人々の賃金は高く設定されていて、不公平感がただよっているとも聞く。ブラジルの治安がやや良くなっているのに比べて、ブエノス・アイレスの治安は最近特に悪いという。

鞄のカバーやジャケットのわきにかけられた「黒い鳩のふん」は、酸っぱい匂いを発し始めている。

チリでカメラを持ち去った男性も、今日話しかけてきた女性も、見事に善良な見た目をしているから、おっかない。

日の当たる宿のテーブルで、紅茶を淹れ、トーストしたパンに、チーズやキャラメルペーストDulce de Lecheをつけてかじる。

近いうちに南米を離れてアフリカへ飛ぶ予定なので、いろいろと調べものをしていると、ブエノス・アイレスから今朝発ち、ブラジル経由でマダガスカルへ行くつもりだった女の子が、ブラジルビザがないために経由ができず、結局飛行機に乗れずに宿へ戻ってきた。

チケット発券の際に、ブラジルは経由地なのでビザは必要ない、と言われたのにもかかわらず、飛行機がブラジルの国内ターミナルに到着して、国際ターミナルへ移動するのにビザが必要だ、ということになったという。

まったく、ひどい話だ。

たいていのレストランは20時以降に開くというので、20時を過ぎて、夕食をとりに外へ出る。洒落た街角では、ジャズが演奏され、タンゴが踊られている。

メイン通りのコリエンテス通りの向こうに見えるオベリスコを見つつ道を渡り、カフェや書店、レストランなどの多いフロリダ通りを進む。

レストラン以外の店は徐々にシャッターを閉めつつある。Musimundo店でDVDを買い求めた後、「映画館通り」と呼ばれるラバージェ通りをてくてくと歩く。

フランスのカフェ文化と、米国のシネマ文化に東京の銀座、新宿文化が入り混じっているふうに見える。ここでは教会だって、映画館のようにモダンな造りだ。

道を歩いていると、幾人ものレストランの客引きから声をかけられる。その中の1軒、La Casona del Nonno Lavalle 827に入る。テーブルに赤いギンガムチェックと白のテーブルクロスがかかるビストロふうの店内は、さまざまな年代の男女が、ゆっくりと食事を楽しんでいる。

皿にこんもりと盛られた肉の塊に、多くの人々がワインを傾け、幾人かがビールを飲んでいる。

サーロインステーキ、Bife de Chorizoとフライドポテトとサラダ、それにパンとタパスをオーダーする。そして、Quilmes Cristalのビールを合わせる。ステーキは分厚くてジューシーで、もぐもぐとかむ。

夜23時になるころでも店内は賑わっていたものの、一度道に出ると、なかなか人気が少ない。ひそりひそりと宿へ帰ることにする。