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エチオピア正教とエチオピア時間とインジェラとコーヒーセレモニー – Addis Ababa, Ethiopia

ケニアのナイロビから、エチオピアのアディスアベバまで、フライト時間はわずか2時間。テレビには、「ザ・シンプソンズ」が流れている。

その間に食事のサービスがある。オムレツにじゃがいも、トマト、それに苺ヨーグルト、フルーツの盛り合わせにコッペパンとクロワッサン。ビールはないので、パイナップル・ジュースをお願いする。追って、苦味のある濃いコーヒーが配られる。

やがて、灯りのつく街が見えてくる。アディスアベバである。

空港では男性スタッフの周りに人だかりができている。黄熱病カードを持っているか確認をしている。

ビザ発行オフィスに入ると、二人の男性がのんびりと仕事をしている。「金を払ってください」と支払いを急かされる。

表面が英語、裏面がアムハラ語で書かれた入国カードを記入し、イミグレーション・オフィスに進む。入国カードは見られることもなく、わきに置かれる。カメラが顔に焦点をあて、ぱちりと写真を撮る。担当者がそして、「ありがとうございました。」と言う。

こうして苦労したビザが、あっさりと貼られたパスポートをもって入国となる。

最後にもう一度荷物をX線にとおして、到着ゲートをくぐる。

アディスアベバの空港は、新しく明るい。Wi-fiさえあるという。案内所の男性は、もしよかったら、ここのパソコンを使ってください、とオフィスのパソコンを指さすほどだ。そして「今はまだ朝早くてミニバスで市内に行くのは危ないので、タクシーをお勧めします。」と言う。

空港にあるエチオピア・コマーシャル銀行のATMはひなびた様子で佇み、仰々しい映像と空港に鳴り響くプッシュ音とともに作動する。

雨が降っている。

正規登録されているという空港前のイエローキャブの客引きから一人にお願いすることにする。アディスアベバ出身の男性で夜も空港で客引きをしながら仕事をしているのだという。

宿に到着すると、南アフリカで会い、ザンビアで偶然再会し、その後タンザニアまでの列車で同じ部屋になった韓国の女の子と、再び遭遇する。でも女の子は泣いていた。「昨晩携帯電話が盗まれたんです。」という。携帯電話で友だちと話して、それから携帯電話をウェストポーチに入れたんです。ウェストポーチはずっと前につけていたのに。どこで盗られたのかも分かりません。昨日クラブにいったときに、とても混んでいたから、そこで盗られたのかもしれない。

朝からエジプトビザ取得に動く。エチオピアの北、スーダンのビザを申請するためにエジプトビザが要求されるからだ。

エジプト大使館近くまで行くミニバスが聖ギオルギス教会付近から出ているので、教会まで歩いていく。

道ばたには、靴底、ゴムや鉄の破片、トイレットペーパーの切れはしや草、それに果物などが売られている。靴磨きをする男性が多く、道にずらりと並び、客もまた同様にずらりと並んでいる。みな一様に新聞を広げて読み更けている一角もある。

物乞いも少なくない。目である部分にこぶがあり、やや離れたところに真っ赤な塊をもった男性、ぱんぱんに膨れ上がった足を雨に濡れた泥道に浸して物乞いをしている男性、子どもを連れて手を前に差し出す母親、足の不自由な人。子どもも上目遣いに顔をやや傾けて、手を差し出している。

広場には国旗と赤十字の旗が翻り、赤十字のゼッケンをつけた若者たちが歩いていく。

聖ギオルギス教会は、エチオピア正教の守護聖人、聖ギオルギスに捧げられた教会である。

その石の建物に人々が寄り添い、口や額をつけていく。聖書を読む人もいれば、教会から離れた場所からも教会の方向へ祈りを捧げている人がいる。

エジプト大使館にたどり着き、必要だというパスポート、写真2葉、それにエチオピア通貨Birrを引き出したATMのレシートを提出する。

すると、大使館の女性は、申し訳なさそうに、遠慮がちに言う。「お二人が結婚していることを証明する書類はお持ちですか。もしお持ちでない場合、Birrを引き出したときの各人レシートが一枚ずつ必要なんです。Birrをどのように手に入れたのか証明できないとだめなんです…。」

二人で一枚のレシートしかなかったため、最寄りのATMに行ってお金を引き出す必要が出てきた。最寄りのATMはミニバスに乗っていっていただかないといけないんです、と係の女性が再び遠慮がちに言う。

言われた通りにミニバスに乗り、アラット・キロへと向かう。エチオピア・コマーシャル銀行に立ち寄るもATMは故障している。「弊社の別のATMはここからミニバスで15分ほどいったところにあります。」

午前中までしか申請を受け付けていない大使館に戻る時間を考えれば、もう残された時間は、ない。

急いで近くのアワッシュ・インターナショナル銀行に行って、手持ちのUSドルをBirrに両替して、そのレシートを持ち込むことにする。

銀行の奥の部屋に通され、ぴしりとスーツを決めた男性が手際よく作業する。そのわきで、マスクをつけた人々がコインを丹念にカウントしている。

こうして再びミニバスに乗り、エジプト大使館に戻る、つもりが、間違ったバスに乗ったようで、あらぬ方向へとバスが進む。

それに気がついたときには、11時50分過ぎ、受付終了まであと10分もない。乗客がみな下車をしたバスの運転手は、それならエジプト大使館まで連れて行ってあげるよ、とわたしたちだけを乗せたバスをエジプト大使館前までつけてくれた。

こうして、12時ぎりぎりにオフィスに滑り込み、申請を終える。

やれやれと息をつき、またバスを乗り継ぎ、スーダン大使館へと向かう。ビザ申請について尋ねるためだ。

バスで隣に腰掛けた男性は、奨学金をとって、コンピューター・サイエンスを勉強しているという。バスを降りてからも、道を案内します、と言って、ついてきてくれる。

到着したスーダン大使館は、昼休みで閉まっていた。門番の男性は、9時(インターナショナル時間の15時)ごろにまた開きますとエチオピア時間を表示した携帯を見せて言う。

開館を待つ間、昼食をとりにスーダン大使館からほど近いレストランへ入る。

エチオピアには、コーヒーセレモニーなるものがあって、普通の食堂の片隅にセレモニー用セットが置かれている。

店内では数組の男性グループが、エチオピアで主食として食べられている酸味のあるクレープ状のインジェラをほおばっている。みなそれそれぞれに話かけてくる。

そのうちの一組に、一緒に食べましょうとすすめられ、同じテーブルにつき、インジェラをつまむ。羊の肉をインジェラに包んだり、干し肉とインジェラをちぎったクウォンタ・フルフルを食べたりする。

会計士とIT専門家と学生の3人組みだ。「3人共に兄弟のように親しい友だちなんだ。」と言った。仕事や学校の休み時間にわざわざ集まって昼食を食べたりするほどの仲なのだ、と確かにそう言った。

メニューが全てアムハラ語で書かれていて、全く何のインジェラなのか分からないので、読み解いてもらう。牛肉にインジェラをつぶしたフルフルがインジェラの上にのったものを追加でオーダーする。

エチオピアはここ最近インフラや交通機関も整い、大きく拡大成長しているという。経済はのびているというが、貧富の格差が広がっていることが問題だと男性たちは口を揃える。

友だちや家族の絆がとても強い国に、拝金主義や個人主義が入ってきて、その絆がゆるみつつあるのが残念だと言った。

イタリア統治の時代が5年あり、町にはイタリア建築の影響を受けた建物もある。でもエチオピアは、アフリカでとても稀な、長期植民地化のなかった国なんです、と誇らしげに言った。

食事が終わると、コーヒーセレモニーセットの前で記念撮影をしましょう、と誘われる。

三人のうち一人は仕事に戻ると言っていなくなり、もう一人はどこかにいなくなった後、真新しい車に乗って戻ってきた。「コーヒーを飲みにいきましょう、車に乗ってください。」という。

一人は車に乗り込んだままだ。そのうちにもう一人が車内にいる男性を指して、ひそひそとわたしたちに囁き始める。「本当は彼は友だちじゃないんだ。だから彼なしでコーヒーを飲みに行っても良い。とにかく、車に乗ってください。」

彼は時折何かを考えるかのように目をそらし、そして曇った顔を見せるようになった。この様子では、車には乗れない。

残念だが、コーヒーをご一緒することはお断りし、昼休みを終えただろうスーダン大使館に急ぐことにする。

ビザについて尋ねると、スーダンの次に行く国と国籍を聞かれる。

エジプトに行きます。国籍は日本です。

パスポートと写真2葉、それにエジプト・ビザと100ドルを出してもらえれば24時間でビザを発行しますよ、と、見た目にこわかったおじさんが、にこりと笑って言う。

そして、なんでも聞いてください、大丈夫です、心配いりませんよ、と言い加えて、がははと笑った。

スーダン大使館から出て、近くのカフェに寄っていくことにする。雨は一層強くなり、店の天井を覆う木の網目からは雨が漏っている。

ここにもコーヒーセレモニー用セットが片隅に置いてある。

小さなカップが並べられたテーブルのわきに乳香などから作られたお香と、炭が置かれている。お香の煙とコーヒーの香りが立ち込める。店の女性は、その煙の中で、ぱたぱたと炭を煽ぐ。客がくれば、炭の上に置いたポットからコーヒーを注いで差し出す。

濃い色をしたコーヒーに、薄っぺらなステンレスのスプーンで2杯砂糖を入れる。エチオピアのコーヒー・セレモニーといえども、日常に溶け込んだそのセレモニーは、ステンレス製の砂糖入れには中国語のラベルが貼られているといったぐあいに、あくまでカジュアルなものだ。

コーヒーは甘さと苦みをもつチョコレートのような味がする。

隣から話しかけてきた男性二人はコーヒーを飲み終えてすぐビールジョッキに突入していく。そして日本は強い国だ、と親指をたてた。

夕食は、宿から歩いてすぐのWedubeポート・レストランでいただく。船をモチーフにした食堂には、地元の男性たちが一人か二人、あるいは三人でインジェラを囲み、手でそれを器用に食べていく。こんなふうに、男性グループがさして時間をかけずにインジェラをたいらげ、去っていくのが多いようである。

豆とインジェラをオーダーする。店に置かれていなかったSt.Georgeビールを、店員の男性はわざわざ近くの店まで買いにいってくれた。