木と石。 – Tulufan / Hami, China
朝食をとりに、バザールへと向かう。北京時間の9時は、まだ新疆時間の7時。交通機関は北京時間で動いているが、バザールは新疆時間で動いているようで、新疆時間の7時だと多くの店がまだ準備中のようすだ。
バザールの前にはまあるいパンが売られ、入ってすぐにイスラム帽や民族帽が売られている。さらに進めば、肉がぶらさげられていて、その奥に屋台が並んでいる。
朝からラーメンを食べる人が多いが、多くの客で賑わっていた店で、Naisaと包子を頼む。Naisaはミルクを薄めたようなスープで、近くで買ってきたナンをちぎってひたして食べるらしい。ほんのりと甘くて優しい味に、包子の韮の風味が効いてくる。
この屋台で食べている全員がウイグル族で、みなウイグル語を話している。漢字の多い建物の並ぶトルファンの街のバザールの一角は、こうしてウイグル族の人たちの集まる場所になっている。漢族とウイグル族は、ここでは交じっていない。
トルファンで有名な干葡萄を買いに、近くのバザールへと立ち寄る。梅や杏やら棗、それに葡萄のドライフルーツがずらりと並んでいる。甘い干葡萄を量ってもらい、それを袋に詰めてもらう。
今日はトルファンからハミへと向かう。ターミナルに入るにも荷物検査がいるものの、ここでは水のボトルは持ち込みが許されていて、係員はどうせ水でしょう、と言わんばかりに手で誘導しながら、わたしたちのボトルについた水の滴を手につけて、毒味のようにぺろりと舐めた。
バスは再び宇通客車で冷房もついていて、テレビ画面からは映画、カンフー・パンダが流れており、電光掲示板からは、時間に車内外の気温、それに時速さえ流れている。座席は満席だが、通路にはゴミ箱も置かれて、清潔に保たれている。
トルファンの街をぬけて、葡萄を乾燥させる小屋をあちこちに眺めながら、葡萄畑を抜けていく。しばらくすると、左手に西遊記にも登場する火焔山が見えてくる。茶色に褐色、赤にオレンジといったグラデーションを見せる土が、めきりめきりと模様をつけながら、一つの大きな山の形を成している。
石油を採掘する機械が乾いた土地に点々としている。飛行機の機材を運ぶ大きなトラックが、乾いた山々を背に何台も走り過ぎて行く。
一碗泉というゲートを通り、バスは進む。
昨日ウイグル族だといって話しかけられた男性からいただいた干葡萄とナンをほおばる。この二つの組み合わせがよく合う。
6時間ほどバスに揺られてたどり着いたハミも、トルファンと同じように、高いビルが立ち並び、高いクレーンがそびえたっていた。ここでもまた、この数年で街はその装いをがらりと変えてきている。道ばたには「葡萄促干剤」と書かれた段ボール箱が置かれている。
長距離バスターミナルから街の中心へとバスに乗って宿に荷物を置いた後、ハミ回王府やハミ王陵を訪ねに再びバスに乗る。
ハミ王国はウイグル族の地方政権で、ハミ王陵にはその歴代の王と王族が眠っている。入口でチケットを買うと、受付の女性がどうぞとハミ大棗を手渡してくれた。
王陵は、茶色い木と石、タイルづくりを見事に融合させている。モスクのタイル張りは修復が雑なのか、さささと書かれたような模様のタイルが、欠けた合間に貼りつけるように取り付けられている。
今までの旅で見てきた石造りのモスクから、東に向かうにつれて徐々に木造の建物が増えていく。内側壁面には花の絵の描かれたタイルが貼られ、朱色や緑に塗られた木の柱がずらりと並んでいる。
太陽はオレンジ色に空を染め、反対側には低い位置に大きな白い月が上がっている。道ばたでは荷台にハミ瓜を積んでいる人々がいる。ハミ瓜はこの土地の名物で、甘いものから、みずみずしくジューシーなものまでさまざまだが、だいたいにおいて、切られたハミ瓜には蜂が集まっている。
この辺りは古びた建物の壁に赤い文字で奇石、とずらりと書かれていて、どうにもおどろおどろしい感じすらする。だいたいがひっそりと人気もない建物だったが、一軒灯りがついていたので、入ってみる。そこには刀の形や船の形、それに亀の形といった珍しい形の石がずらりと並び、それぞれ数万円から、亀の石などは数十万円するという。
そばにある、イスラム伝道師を葬った廟、ケイス墓でも日の入りを迎えようとしていて、徐々に薄暗くなっていく。すっかり肌寒く、しん、としたその中で、一人の男性が、静かにメッカに向かって祈りを捧げていた。
とっぷりと暗くなってしまい、バスの最終便も終わってしまった8時半ころ、個人の車に支払いをして街の中心へと送ってもらう。仕事帰りだというその男性は、この数年でハミの街はずいぶん変わったと言った。そして、それは良いことだとも付け加えた。
この数日でぐっと気温が下がったらしい。
夕食は、工人市場で開かれていた屋台でいただくことにする。屋台はどれもメニューに変わりがなく、ポロ飯に羊肉串、それに魚といった食べものが並んでいる。
一軒の屋台に座り、ポロ飯と羊肉串とナンをオーダーする。ポロ飯は中央アジアのプロフからの続きであり、羊肉は自然の大きさで、ナンもあげて唐辛子を振りかけて出される。
すると、働いていた女の子が、良かったらスープをどうぞとテーブルに出してくれた。豆腐やねぎ、それにじゃがいもなどの入ったピリ辛のスープだ。
すっかり肌寒くて長袖をはおるわたしたちには、温かなスープがありがたかった。この夜の市場もまたウイグル族がほとんどで、そのスープを出してくれた女の子もウイグル族の女の子だ。ふだんはウイグル語を話すが、小学校の時に習った漢字は書けるんです、と言って、難しい漢字をきれいに書いてみせた。
月はさきほどより小さくなって、さきほどより高いところに浮かんでいる。
2012/08/31 21:18 | カテゴリー:China