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被災地を巡る 1

お盆は、東北に行くことにした。
震災の日は日本にいることができなかったし、その後もまだ一度も東北を訪ねたことがなかった。日本人として、行かなければいけないと思っていた。

訪ねる前は、この旅は、なかなかに辛いものになるのだろうと思っていた。

東京駅から新幹線やまびこで仙台まで向かう。東京駅にはがんばろう東北という提灯に、東北の夏と大きく書かれた看板が掲げられていた。

2時間半ほどで仙台に到着し、その後、石巻まで向かうのに仙石線に乗り換える。仙石線は、途中で電車が途切れ、列車代行バスが走っている。

25分ほど電車で走り、松島海岸で代行バスへ移動。

代行バス乗り場が書かれているすぐそばに、「ここは海岸です!津波警報が出たら直ちに避難してください」と赤い文字で書かれている。



松島を眺め、田んぼの広がるを眺めていると、そのうちに何もない更地と、ブルドーザーが見えてくる。

仙石線復旧工事中と書かれた、
使われなくなった駅のすぐそばをバスが通り、
ところどころ木が斜めに傾き、
工事中のサインがある。
















ご迷惑をおかけします
地震で壊れた橋を
なおしています

50分ほどで矢本駅に到着し、
そこからまた電車に乗り換え、
15分ほどで石巻に到着する。

そのままレンタカーをして、女川へと向かう。
車を走らせてすぐ、信号機と同じほどの高さのところに
東日本大震災で津波がここまで来ていたと印がつけられている。

荒れた土地が広がっているかと思うと、
パチンコ屋や大手スーパーの真新しい大きな建物が並ぶ場所もある。



海沿いの398号線を進み、おさかな市場に立ち寄り、
仮設のきぼうのかね商店街に到着した。

岡八百屋に入り、
女川港水揚げさんまで作ったさんまそぼろやら
女川のわかめかりんとうやらを買い求める。
八百屋のおじさんは、チリ地震のときに続いて、今回の震災で二度家を失ったという。


この旅、事前に計画をたてずにきたものだから、商店街にある観光案内所に出向いてみる。
今日は、できれば、気仙沼まで行ければ良いと思っていた。

でも、観光案内所のお兄さんが、親切なもので、
わたしたちが泊まる場所も決めていないというと、
El Faroというトレーラーハウスの宿泊村がおススメだといい、電話をして予約をとってくれた。「今夜は迎え火もあるから見て行くといい。」

お兄さんは、震災当日、海からすぐ近くの高台にある病院に逃げたのだという。
夜には、海のほうから、助けてくれ、という声が聞こえてきたというが、
朝になると、その声は聞こえなくなっていた。

今は、仮設住宅に住んでいるが、4人家族で4畳半が二間、年頃の男の子と女の子。受験も控えているという。



















車を飛ばし、少し先の大川小学校へ。
辺りは雑草が生えた空き地が広がっている。
破壊された小学校の二階には、当時のままの貼り紙が貼られている。
ここに残った問題は、まだ解決していないんですと地元の人は言う。

泥にまみれた靴も、半分地面に埋まって固まったズボンも、
そのままだ。

夜も更けた「元マリンパル女川跡」には、迎え火をしに、地元の人々が集まってきている。
昨年は、それぞれの家があった場所で火を灯したというが、今年は既に地面を上げる工事も始まり、そうもいかずにこうしてみなが集まって火を灯している。

京都からボランティアで来たという若者に、火を灯してもらう。

テレビ取材も入っている。




夕食をとろうと思っても、
空いている店はほとんどない。

さきほどの観光案内所のお兄さんが迎え火に来ていたので、良いお店があるか尋ねると、まわりのお兄さんたちも寄ってきて、お店の噂話が始まる。

おススメをされたのはきぼうのかね商店街にある、
串焼きたろう。




行ってみると、岡八百屋のおじさんも、呑んでいた。
店に入ると、仮設には思えない、自然な設えで、
これは女将さんが手作りで仕立てたものだという。

かつおのたたきと焼き鳥にビールをいただく。
女将さんは強く、美しい女性だった。
震災当日のことについて、時々笑顔をつくりながら、話をしてくれた。
津波の水が身体を沈め、周りの人たちと支えあった体験。
もともと店舗は港にあったものの、津波にのまれ、
この仮設商店街に引っ越してきた。

ただ、ここはあくまで仮設。

港付近は既に住居として住めなくなっている地区もあり、
戻ることもかなわない。

女将さんは、そのうちに、ふいに涙を流し、キッチンへと入った。
でも、また満面の笑みに戻る。

こうして若い人たちが、ここに来てくれることで救われる、
そうおっしゃった。

やきとりと書かれた紅い提灯をあとにして、
ファミリーマートでアイスクリームを買い求め、
さきほどまで迎え火が行われていた場所でそれをほおばる。

夜の海は真っ暗だ。

El Faroのトレーラーハウスは真新しく、とても清潔で、
ふんわりとした布団は快適だ。