Top > ブログ

ラグジュアリーなアウトドア空間 – Puerto Natales / Parque Nacional Torres del Paine, Chile

今日からパイネ国立公園のトレッキングである。鞄の中に、テントや昨晩用意をしておいた3日間分の食料をつめこむ。朝は宿で出してもらったコーヒーを少しすすり、甘いチョコレートパンやフランスパンを袋に入れて、パイネへ向かう7時半のバスに乗り込む。

プエルト・ナタレスから2時間ほど、窓の外に淡い緑色をしたアマルガ湖、その向こうに白い雪をかぶったAlmirante Nieto山や岩峰トーレス・デル・パイネが見えてくる。辺りにはパタゴニアにしかいないというラクダ科のグアナコの群れが歩いている。

公園の入り口でバスが停まると、公園のスタッフがバスに乗り込み、園内での注意事項を説明する。

キャンプは所定の場所以外で行ってはいけない、決められたトレイル以外を歩いてはいけない、ゴミは持ち帰らなくてはならない、焚火をしてはならない、キャンプストーブを使用する際にはキャンプエリアでのみ使うこと。

そういった内容は一枚の用紙にも書かれており、滞在日数やパスポート番号などとともにバスで事前にサインをしておく。そして入り口で入園料とさきほどサインした用紙の1部を渡す。

入り口からミニバスに乗り換えて、30分ほどで今日の拠点となるホテル、Hosteria Las Torresに到着する。大きな荷物はそこに置き、トーレス・デル・パイネを望むMirador Las Torresまで往復8時間ほどのトレッキングに出かけることにする。ホテルを出るとぱらぱらと小さな雨が降り、歩く小道に大きな虹がかかっている。

虹を追いかけるように丘をあがっていく。同じ高さにあった湖が徐々に下のほうに小さくなっていき、2.5kmほど歩いたところで、川沿いの崖に到達する。

強い風が吹きつけ、立っていられない。風が身体を崖のほうに押していくものだから、飛ばされて崖の下へ落ちないように岩にしがみつく。

こうして風に耐えながら、砂利道を少し下がり、橋を渡ったところに、園内に数ヶ所ある避難小屋レフヒオの一つ、Chilenoにたどり着く。

靴を脱いでよれよれと逃げ込んだ小屋の中はまったく風をさえぎり、部屋の片隅に暖炉が焚かれている。木の椅子に腰掛け、その暖かな部屋で、持ってきた昼食、パンにチーズ、トマトにニンジンを広げる。

こうしてしばらく休んだ後、小屋のそばで静かにしている馬のそばを通り過ぎ、また目的地へと向かっていく。

いくつかの川を越え、森を抜けていくうちに、空は次第に晴れてきた。時折川の水をボトルに汲みながら、進む。川の水はたっぷりと森の空気を吸いこんでいる。

最後、480mほどの標高差の砂利道を上がっていく。青い空には大きな筆でさっと描かれたような白く太い雲の線がひかれている。

到達したトーレス・デル・パイネは、デ・アゴスティーニ塔、セントラル塔、モンツィーノ塔の3本の花崗岩の岩山から成り、切り立った峰がすっと空に向かっている。麓には氷河があり、更に下には、淡い緑がかった湖が広がっている。

ここにもまた強い風が吹き荒れ、湖畔の砂は高い渦を巻いて湖に落ちていき、湖面には水しぶきがあがって小さな波を作り出している。激しい速度でうごく雲が湖になびくように影を落とし、軽快なリズムで音楽を奏でている。

そこに初老の男性が一人、もそもそと服を脱ぎだし、じゃぶりと湖に入る。極寒のその湖から、男性はそのままくるりと向きを変えてそそくさと畔にあがり、寒い寒いと笑った。

チョコレートクッキーをかじって、同じ道をHosteria Las Torresまで引き返す。強い風に辺りの木々はひっくり返っている。木や岩に塗られた朱色のマークを目印に日の入り前に戻れるよう、道を急ぐ。

17時半過ぎ、先ほど昼食をとったレフヒオChilenoにたどり着き、外にそえられた木のテーブルに腰掛けて、クラッカーをかじる。そばに立てられた風車はぐるぐると勢いよく回っている。

変わらずに風の強い砂利道を抜け、山道を下っていく。空にはのっぺりとした、クジラのかたちの雲が浮かんでいる。最後に再びボトルに川の水を汲み、木のはしごを渡れば、Hosteria Las Torresのあるエリアに戻ってくる。

日の暮れないうちにホテルHosteria Las Torresのキャンプエリアにテントをたてる。見上げれば、Almirante Nieto山や岩峰、トーレス・デル・パイネが赤い夕陽に照らされている。テントを張り終えたら、ホテルに行き、シャワーを浴び、夕食を食べることにする。

ホテル内にはあたたかな暖炉も灯され、木で作られた床でヨガをしている初老の女性もいる。温度調整も抜群のシャワーと暖炉で身体をあたためた後、洒落た音楽の流れるレストランで、鞄につめてきたパンやチーズ、ゆでた卵にソーセージを取り出す。それにマヨネーズやらキャラメル味のDulce de lecheをつける。ホテルのスタッフも一様に愛想が良い。

ここは、豊かな自然の中でアウトドアを満喫しながらも、快適な場所を提供するラグジュアリーなアウトドア空間だった。

夜の23時、規定通りにホテル内のあらゆる電気が突然ぱちりと消えた。懐中電灯を照らしながら、テントまで戻る。月のない真っ暗な空には、星がしきつめられている。星がすっと流れていく。

冷え込んだ大地の中でテントにもそもそと入り、眠りにつく。隣の大きなテントからは、笑い声が聞こえてくる。