宗教の交じわる街 – Jerusalem, Israel & the Palestinian Territories
朝食は、たまねぎと卵でスクランブルエッグをつくり、それにご飯とお茶を合わせる。イブラヒムさんも大きな鍋にご飯をたっぷりと盛り、それをしゃもじでくるくるかき回している。
今日も岩のドームの前のオリーブ山の頂上付近に、イスラエル国旗がはためいている。
真っ暗としていて備え付けのろうそくに火を灯して歩く預言者の墓や、イエスがエルサレムの滅亡を予言し涙したという記述にもとづいて建てられた主の泣かれた教会、金色のドームをもつロシア正教マグダラのマリア教会に立ち寄りながら、旧市街へと下っていく。
今日は、神殿の丘の上に建つ岩のドームを訪ねる。岩のドームの内部には現在イスラム教徒しか入ることができず、その他の人々は外から眺めるばかりだ。
非イスラム教徒が岩のドームのある神殿の丘に入るゲートは、ユダヤ人の集まる嘆きの壁のわきにある通路からだけだ。ユダヤ教徒も入れると聞いたが、その場合は軍人の護衛がつくとも聞く。
神殿の丘は、イスラム教とユダヤ教の聖地だ。神殿の丘には、かつて第一神殿、第ニ神殿が建てられていたが、第ニ神殿はローマによって城壁の一部以外、破壊された。その残された壁が、ユダヤ教にとっての嘆きの壁だ。2000年にはシャロン党首が神殿の丘を強行訪問して、反発するパレスチナ市民によってセカンド・インティファーダが起きている。
荷物検査を受けてから、イスラエル国旗のぶらさがる木造の回廊をつたって、神殿の丘に入る。
右手にはイスラム教徒にとって重要な聖地でもあるアル・アクサー寺院、その手前に手足を清めるための水場があり、その向かいに丸い屋根が黄金にきらきらと光を放つ岩のドームがそそりたっている。そして紺や水色、緑や黄色などの鮮やかな装飾をほどこしたタイルが八面体を作りだしている。
一部では、イスラム教徒にとって聖なる岩のドームを取り除いて、ユダヤ教の第三神殿を建設する計画があるとかないとか、まことしやかにささやかれている。
イスラム教徒以外は、岩のドームに入ることはできず、入口で追い払われる。
嘆きの壁の前には今日もユダヤ教徒が集まり、祈りを捧げている。壁の周りにはぎっしりとイスラエル国旗がたてられている。壁の前では、グレーのスーツを着た新郎と真っ白なウェディングドレスを着た新婦が笑顔で記念撮影をしている。ユダヤ人街にあるラムバン・シナゴーグでは、黒いキッパをかぶった二人のユダヤ教徒が静かに書物を読んでいた。
世界で最も古い地図にも記されていたというエルサレムのメインストリート、カルドを通り、ムスリム地区へ入っていくと、途端に賑やかにものが売られるようになる。チョコレートアイスをかじりながら、歩く。
ユダヤ人もいくつかの派閥に分けられていて、その中でも厳しい宗教生活を送っている正統派のユダヤ人が住むメア・シェアリーム地区に向かう。
彼らは聖書の律法をかたく守りながら暮らしていて、普段はイーディッシュ語を話している。通りにはユダヤ教用品や本屋、食料品店もある。フランス系ユダヤ人住人も多いようで、フランス語の本屋もある。もみあげのついた帽子を売る店、黒い靴ばかりを置いた靴屋、メズーザやろうそく立て、グラスが並ぶ店。
道沿いにはずらりと貼り紙がしてあり、それを熱心に読む人々がいる。携帯電話をただ耳をあてて聞き入り、足早に歩いていく人々もいる。道ばたには思いのほかごみが散らかっている。
人々が歩いているにもかかわらず、辺りは静まりかえり、部外者を受け付けない雰囲気がただよっている。男性はもみあげを長くくるりと伸ばし、黒い帽子をかぶり、黒いフロックコートを着ている。女性も全身黒い服で歩いていく。彼らはテレビやパソコンなどとの情報を一切遮断して暮らしている。
子だくさんが奨励されていて、一家族10人以上であることも珍しくないというから、子どももたくさん町に歩いている。超正統派のユダヤ人には兵役の義務もなく、仕事をせずに生涯をトーラーの勉強にかける。だから、街には黒い服を着た男性が食料に買い出しに来ている姿も、ベビーカーをひいている姿もよく見かける。
子どもたちも長いもみあげに黒い帽子。最初にこりともしなかった子どもたちに、挨拶をしてみたら、ようやく少しの挨拶がかえってきた。そのうちにそんな男の子たちも店頭で売られているピンク色のビニールプールに興味をもちはじめた。
一軒の食料品店の男性は、黒に白のストライプの入ったカジュアルなポロシャツを着ていた。その男性は言う。「ここら辺に住んでいる超正統派ユダヤ人は変わっていて、頭がちょっとおかしいんだよ。」仕事をしない超正統派のユダヤ人がどう生活しているのかは秘密なんだよ、とやや声をひそめて言う。そういう男性もユダヤ教徒だ。今のテルアビブの状況はよくない、宗教もなにもかも忘れさられていると嘆いた。
そんな中、フランス系ユダヤ教徒だという女性が買い物にやってきた。
超正統派のユダヤ人女性は、結婚すると髪の毛を剃るのだという。女性のシンボルである髪の毛を人の目にさらさないようにするためで、頭に帽子やスカーフ、ウィッグなどをかぶっている。
店に来たフランス系ユダヤ教徒の女性はさらさらとした金色の髪の毛をしていて、それもウィッグだと言った。結婚をしているから、髪の毛を隠すのだという。髪の毛を剃っているのか尋ねると、わたしはフランス系だから髪の毛は剃っていないのだと言いながら、微笑んだ。
メア・シェアリームを抜けて南に位置する繁華街のほうへ出ると、とたんにカジュアルなふうに切り替わる。洗練されたバーやカフェにマクドナルド。屋外でお酒を楽しむ人々がいる。
JAFFA CENTER駅から、マハネー・イェフダー市場のあるHA-DAVIDKA駅までLRTのトラムに乗る。マハネー・イェフダー市場には、黒帽子、黒服を着た家族がカジュアルな人々に交じって買い物をしている。右手にビニール袋、左手にベビーカーといった具合に、男性も夕飯の支度に大忙しなのである。難しい顔をしてかわいらしいパッケージのスイーツを買っていく黒帽子黒服の男性もいる。
パンや肉、野菜に果物と並ぶ一大市場の中に、1947年創業の老舗ハルヴァ屋があるので、ゴマを90%、黒糖を10%使ったというコーヒー味のハルヴァをいただく。甘すぎず、ふんわりと口に入る。
夕日に街が照らされるころ、トラムやバスを乗り継いで帰り、家でご飯とトマト、それにお茶と林檎をいただく。
2012/06/19 23:28 | カテゴリー:Israel & the Palestinian Territories