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グルジアにいたスターリンが消えた – Tbilisi / Gori, Georgia

朝ごはんにパンと紅茶をいただきながら、身支度を整え、スターリンの生誕の地、ゴリへ向かう。

昨日会った神父は、スターリンはグルジア出身なのにロシアに行ってグルジアに侵攻したのだから裏切り者だと言っていた。そして、ロシアの信仰はグルジアの信仰に比べると狂信的だとも加えた。一方、グルジアで、スターリンを今も偉人だと考える人も少なくない。

昨日と同じディドゥベ駅からバスに乗ってゴリの街へと進んでいく。道の途中、古びたエメラルドグリーンの色をしたベンツのバスが故障して、がたりと停まる。すると、運転手と車掌の二人のおじいちゃんがバスから降りて、とんかちこと慣れた手つきで直し始める。再び走りだしてもまだ調子ののらないバスは、ゆっくりコトコトと走っていく。こうして2時間と少しでゴリのターミナルに到着した。目の前の丘の上には、ゴリ城塞が見える。

ローカルバスに乗り換えて、7世紀に建てられたアテニ・スィオニ教会に向かう。道には牛が通り、あちらこちらにぶどうがぶらさがっている。このバスの運転手もまたおじいちゃん。途中でぎーっとバスを停めて、無言で一人バスを降り、商店からどでかいファンタのボトルを手に運転席に戻ってまたブルンとエンジンをつけて動き出す。

教会は修復中のようで、中には足場が組まれ、女性が二人座って、色あせつつある壁画を模写している。足場だらけの教会内にも、シャンデリアがぽつりとぶら下がり、ドームからはその長い歴史を感じさせられる。窓から太陽の光が淡く降り注ぎ、教会内を照らしている。

周辺の山々には家がぽつりぽつりとあり、荷台に若者を乗せたトラックやにわとりが疾走していく。山の上に城塞のようなものを眺めながら、少し歩けば、今も使われている教会がまた現れる。中には顔だけを出して全身黒い服を着た修道女が洗濯物を山のように手にもち、ひげを生やして帽子も服も黒ずくめの神父と会話を交わしている。修道女はどうぞと教会の扉を開けて誘ってくれる。

ゴリの町への帰りのバスがなかなかないので、ヒッチハイクをして戻ることにする。停まってくれたバンは、1列目より後ろが取り払われ、酒を片手に男性たちが数人座りこんでいた。バンには爆音のノリノリ音楽がかかっていて、乗り込んだ途端にアルコールの匂いがした。男性たちはウォッカを片手に、手を挙げ、踊りだす。そのうちの2人が手にしていた酒とパンの袋は酒で濡れている。そんな袋を片手に、おぼつく足でバンを降りていった。

20分ほど走ればゴリの町に到着し、てくてくとスターリン博物館を訪ねる。博物館前には、スターリンがポツダム会議に向かうのに使ったという緑色の列車が置かれている。

正面階段にはどんとスターリンの肖像が佇み、右手の土産物屋には、スターリンのカレンダーやキーホルダー、ライターやコインに時計、ボトルワインにコップやTシャツなどが売られている。

大粛清を行った独裁者のイメージをもつスターリンも、ここではアイドルふうだ。

レーニンの新聞記事、社会主義労働英雄の称号を与えられた判決文、レーニンや作家ゴーリキーと一緒に写っている写真、それに農業共同体の農民や赤軍の写真、そしてファシストの旗を投げるソビエト軍の写真。

1905年血の日曜日事件やメーデーの写真、10月革命の地図、中国語や韓国語など各国の言葉に翻訳されたスターリン選集の書籍。

奥にスターリンのデスマスクがぽつりと置かれている。さらに進むと、中国やロシア、イタリア、ウズベキスタン、レバノン、タジキスタンなどからの贈り物である磁器や木彫り、ワイン樽などがずらりと並ぶ。所持品であったスーツケースや文房具や葉巻やパイプに刀も、置かれている。

博物館を出ると、そばには復元されたスターリンの生家もあり、スターリン通りという街道がまっすぐに太く伸びている。道沿いに歩いていくと大祖国戦争博物館、さらに歩けばスターリン広場にたどり着く。広場にはスターリン像がそびえているはずだったが、どう見ても、それらしいものがない。

どうもスターリン像は2年ほど前に撤去されたらしい。今その場所はただの芝生になっていた。あとから聞いたところによると、今の大統領が米国寄りで、グルジアがヨーロッパになることを望んでいるらしい。で、スターリン像を撤去しようと考えたものの、周辺のお年寄りの反対にあったため、夜中にこっそり撤去したらしい。

その隠された像を、政治的な意味をもってしまうスターリン広場から、スターリン博物館の前に移動する計画もあるらしいが、未だにその像はどこかにしまわれたままになっているそう。

道ばたでハチャプリという、チーズのたっぷりのったもちもちのパンを買ってほおばりながら、トビリシへ帰る乗り合いタクシーをつかまえる。

帰りは1時間ほどでトビリシに到着する。スーパーマーケットに並ぶワインとビールから、よく飲まれているNatakhtariの大きなビールのペットボトルを買い求める。そして、駅からほど近い食堂に入って、そのビールをグラスに注ぎながら、爆音ライブとともに、グルジアの水餃子、ヒンカリをつまむ。大きなヒンカリに肉汁がたっぷりとつまっていて、こぼれ出す。

夜の1時を過ぎてもなおがたりがたりと鉄道の走る音がした。