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古いたくさんの教会と、シナゴーグとモスクに雨が降る。 – Tbilisi, Georgia

朝は宿の近くにあるGold Cafeという看板を掲げる店で、アチャルリ・ハチャプリをオーダーする。もっちりとしたあつあつのパンに、ふんわり卵とバター、それにややとろりとしたチーズがかけられて出てくる。ボリュームたっぷりおいしい朝ごはん。

今日は19世紀の町並みが残ると言うトビリシを歩いてみることにする。宿の最寄りの地下鉄駅、ステーション・スクエアからいつもの通りに高速エスカレーターに飛び乗り、地下深いプラットフォームへ下りていく。

金色の像の建つタヴィスプレバ広場のそばのグルジア国立博物館内にはソビエト占領博物館という博物館もあり、1921年から1991年のソビエト占領を振り返る展示が常設で行われている。道にはUNHCRやEUグルジア監視団のロゴをつけた車が停まっている。

バニラのジュースを飲みながら、キリスト教グッズの並ぶ石畳のリセリゼ通りを歩いていくと、右手にノラシェン教会やジュヴァリス・ママ教会が現れる。ジュヴァリス・ママ教会内はカラフルな壁画でおおわれ、ドーム状の天井にはグルジア国旗にみられるような白と赤の十字がひかれている。

グルジアは周りの多くの国がイスラム教国の中、キリスト教中心の国。そんなキリスト教色の強い町の中にもすぐそばにはシナゴーグやスニト・モスク、それにハマムもあり、イスラム教徒が多く住む地域もある。

町からもよく見える丘をてくてくと登っていくと、ナリカラ城塞にたどり着き、城内には聖ニコロズ教会がある。カラフルな絵が壁面やドームにびっしりと描かれているこの教会では、ちょうど結婚式が挙げられていた。

赤いマントを身にまとい、金の十字架を首にぶらさげた神父が前に立ち、その後ろに新郎新婦、そして二人をはさむように若い男女がそれぞれ立っている。新郎は半袖の白シャツに黒いパンツ、新婦は純白のウェディングドレス。そのうちに神父から頭に真珠のついた冠をのせられる。

教会のそばにはグルジアの母、カルトゥリス・デダ像がどんと立っている。母像は、かつてのソ連で国を母になぞらえ、ナショナリズムを高揚させるためによく建てられたのだそう。

城塞からはトビリシの街が一望できる。赤い屋根に白の壁の家々が立ち並び、あちらこちらにとんがり屋根の趣深い石造りの教会が建っている。街の真ん中にムトゥクヴァリ川が流れていて、そこには平和橋と名付けられた近代的なデザインの橋がかけられている。

丘から下り、川を渡って、向かいの小高い丘の上にあるメテヒ教会に向かう。ここでもまた結婚式が行われ、続いてミサが行われた。グルジアの教会はそのおおよそがこじんまりとしていて、ずらりと並ぶ椅子も、ない。だからミサの間もみなドームの下に立ち、神父のほうを向く。神父は人々の合間をぬって、香炉をしゃかしゃかと振りながら、教会内を歩き、参列者はそれに合わせて自由に動いていく。

女性はだいたい頭にスカーフをかぶせている。先日話をした神父の話では、髪を隠すかどうかはどちらでも良く、神との関係の中で決めるべきだと言った。

かつてバザールのあったゴルガサリ広場を抜けて、お洒落なキリスト教の装飾品を売るPokanyを眺めながら、グルジア正教の総本山スィオニ大聖堂に入る。

大聖堂でもまたミサが行われ、緑に金の刺繍があしらわれた衣装を着た神父が香炉を振りながら、練り歩き、わきで聖書が読まれる。ドームの窓から光が差し込み、シャンデリアの灯りとともに室内を照らしている。

グルジアはワインが有名で、街中にもワイン屋が少なくない。甘口のキンズマラウリや優良銘柄といわれているムクザニの赤ワイン、それに白のツィナンダリなどを試す。これもややバニラのような味がしないわけでもないが、いずれにしてもどうも薄くて水っぽい。これくらいのほうが、日常生活にぐいぐいと飲めるのかもしれない。勧められたコンドリの白ワインが、日本でのテーブルワインらしい味。ワインはフルボトルで500円程度から買えてしまい、多くのワインが1000円以下で買えてしまうのだから、安くてぐびぐび日常づかいなのだ。

ほんわかしてきたところで、近くの食堂でパンを食べる。ハチャプリといってもいろいろあるようで、ここにあったのはパイ生地。それにやや塩けのあるチーズがはさまっている。もう一つはドライフルーツの入ったさっくりしっとりとしたパンをいただく。 

さらに歩けば、5世紀に建てられたアンチスハティ教会にたどり着く。古びた趣の教会に入れば、そこもまた人々で溢れ、ろうそくがあちらこちらに灯っている。

そのうちにぽつぽつざあざあと大雨が降り始めた。雨宿りをするも止みそうにない。ざあざあと止まない雨を眺めながら、行ってみたかった近くのサメバ大聖堂まで雨の中を走って訪ねてみる。

雨の中、教会には大勢の人が集まり、赤い聖職衣を着た男性が前を歩き、規模の大きく天井の高い教会に賛美歌が響いていた。橙色に照らされた雨の中の大聖堂を犬が一匹眺めている。

そこからバスに乗ってメトロに乗り継ぎ、宿へと向かう。車内はどことなくアルコールの匂いが漂っている。

トビリシ駅近くの宿の周りは下町ふうで、味のしないようなパンを並べた店や惣菜屋もある。男性たちが集まってペットボトルに入れたウォッカを飲む店があり、灯りをつけた惣菜屋はテーブルに鍋やフライパン、プラスチック容器などを並べて、それぞれ惣菜を売り、ワインなどは量り売りもしている。

今日はこれから国際列車でアルメニアに向かう。トビリシ駅は大きく、予約のときもパスポートを見せれば、はきはきとした発音の英語でチケットを発券してくれた。そしてパスポートを投げて返却されれば、チケットが手渡された。

明るい駅の様子とは打って変わって、プラットフォームは薄暗い。既に寝台列車は停車していて、指定された車両に乗りこむも、手にしていたチケットとは違うベッド番号へと通される。いいからここだと車掌は苛立つように言って、乗客を押し込む。一つのコンパートメントに2段ベッドが2列並んでいる。アルメニア人の女性と中華系米国人の男性とわたしたち。

その中華系米国人男性は、ここの職員たちは馬鹿なのだ、と吐き捨てるように言った。そして、2等寝台のわたしたちよりも3等のほうが逆に空いていて楽にしていられるよと小さく笑った。

車両によっては客のいない車両もあり、客はかためて詰められているのである。

アルメニアの入国用紙を配られたあと、グルジアの警察官がパスポートを回収しにくるので、それに手渡すだけだ。そうすれば、10分ほどしたところで出国スタンプの押されたパスポートが返却される。硬い表情をしたままの警察官が、わたしたちが日本人だと分かると「ブルース・リー」と言った。

列車はタサラ鉄道と比べて新しくて清潔に整えられている。水道からも適度な圧力で水が出て、シーツや布団も配られる。そのうちに冷房がつき、車内は冷えていく。