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船長と奥さん - San Blas / El Porvenir / West Lemmon Cays, Panama

朝起きてみるとボートは既に静かにサン・ブラス諸島のポルベニール島近くに停泊していた。幾隻かのボートもとまっており、日差しを浴びている。

朝ご飯は2種類のハムにチーズ、オリーブオイルとバジルのかかったトマト、スクランブルエッグにパン、コーヒーが並べられている。

食事を終えて船長とともに、ゴムボートに乗りかえて、ポルベニール島へと行く。スペイン語でのポルベニール島は、クナ語ではGaigirgordup島と呼ばれており、イミグレーション、クナ国博物館、小さなホテル、再建設中の小さな空港があるだけの小さな島である。

パナマのポルトベーロで船に乗る前に、パスポートはフランク船長に渡している。船長がみなのパスポートを持ち、このポルベニール島で代表としてパナマのイミグレーションオフィスに行くのである。

あるときは10分で終わるが、あるときは1時間ほどかかることがあるという。
船長が1時間程イミグレーションでねばっている間、わたしたちは島を廻る。

Cabana’s Nan Gabayaiと名付けられた、数部屋にベッドが置かれている建物は、ひっそりとしていて管理者もおらず、人気のない部屋には、部屋の鍵さえ置かれていた。

外の椅子に腰かけていた男性は、ここで月の半分仕事をし、残りの半分は別の島で仕事をしているという。外でイワシの鱗を削いでいる男性がいる。商店が一つあり、ビールは本島の約2倍、1瓶1.5ドルで販売されている。再建設中の空港の片隅では、男性5人が身を寄せ合い、真剣に話し合いを行っている。小さな宿であるエル・ポルベニールの前には家族が商売気もなく、おしゃべりをしながらクナ族のグッズを販売している。

島には他に船を待つフランス人2人のバックパッカーがいた。
1時間の手続きを終えた船長は、イミグレーションの人々にフランス人2人を乗せて行ってあげられないか、と頼まれたという。良い人たちだと、いうのである。

船長は、断った。フランク船長は、通常船のチャーター客しか乗せず、今回のようにバックパッカーを乗せるというのは珍しいのだという。途中から見ず知らずのバックパッカーを乗せて船を汚されたらたまらない、そう言って、断った。船長にとってのCleo’s Angelは、彼の家そのものなのだ。

ゴムボートに乗ってCleo’s Angelに戻り、ゴムボートを力いっぱいCleo’s Angelに巻き上げる。

40分程走ったところにあるWest Lemmon Caysのエレファント島の近くへと移動する。上から見るとゾウの形をしているから、この名前がつけられたのだという。島の周りには茶色や緑色の海草があり、それが水の色へ浮かびあがり、海は茶色や水色、その奥の深い紺色へと層になって色を変えていく。海岸に沿って一周する。

それぞれにシュノーケリングをする。
黄色や水色の魚が珊瑚礁や海草の間を泳いでいる。
黄色く大きなヒトデが、海底にところどころついている。 
マイケルはマンタを見たと目を見開いた。

お昼ご飯はキノコや野菜のチーズリゾット。手作りのパンも香ばしい。食べ終わった後は真水で洗う銀のカトラリーはそのままキッチンへと運び、磁器の器は一度塩水でざっと洗ってから、キッチンへ運んで洗う。       

その後、日差しを浴びながら、トランポリンの上で、眠る。

夜ご飯はフランク船長が、さきほど木のボートに乗った人々から買ったおおぶりの蛸と船長とクラウディアがボートで買いに行ったロブスターを使ってパエリアを作るという。生きた蛸とロブスターをさばく。冷蔵庫もミキサーも、レンジも、スパイスも揃っているキッチンで、汗をかきかき、手慣れた調子で作ってくれる。

船長はかつてスペインなどヨーロッパ各地でいくつかのレストランを経営していたのだという。奥さんであるクラウディアとは、以前互いが別のパートナーと結婚をしていた際に子どものサッカーの試合を観に行っていた時に知り合ったのだという。

その後、フランク船長はスペインと行き来し、ドイツに戻ったときにEメールで「朝食でもどうですか」と誘ったのだという。そのうちにクラウディアさんから、また食事をしましょうと続く誘いがあり、結婚をして9年もの間こうして船暮しをしているのだという。かつてエンジニアリングを勉強していたフランク船長は、80万ドル、南アフリカ製のこのボートに乗って11年になる。クライアントはたいていドイツ語を話すヨーロッパ人だという。

船長は、その太い指を使って、パエリアを作ってくれた。ぷりぷりとした蛸と、身がたっぷりのロブスター、じっくりと味がしみこんだライスに、きゅっとライムを絞ったものだ。

食卓ではたいてい船長がドイツ語で話をするので、スティーブンとわたしたちはきょとんとそれを聞いている。音響システムが優れていると自負するパイオニアのスピーカーから、iTunesに入れた音楽を流していく。

月が今日も海を照らし始め、近くに浮かぶ数隻の船の中から灯りが漏れ出て、笑い声が聞こえてくる。

トランポリンに横になり、月を眺め、星を見上げる。