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賢いタクシー運転手詩人おじさんと、キューバ事情 - Trinidad, Cuba

宿のテラスでいつものとおりに朝食をいただく。定番のパンやハム、オレンジジュースにコーヒー、パパイヤにパイナップルに加えて、きょうはオムレツを作ってくれた。

マヨール広場の近くの、屋内にTEMPLO Yemallaという旗のかかった家があったので、入ってみる。部屋の壁面には大きく太陽や月、海、魚の絵が青い色で書かれており、その前に真珠の耳飾りとネックレスをつけた白い服の黒人女性の人形がちょこんと椅子に腰かけている。

キューバはカトリックとアフリカ宗教が中心で無宗教の人も多いが、このYemallaというのはアフロキューバンの海の神なのだという。さらに奥の部屋にはいると、海の波が大きく壁面に描かれ、月や錨がその上に塗られている。青い服を着た黒人女性の像が、白人の小さな人形を抱いている。その黒人女性は岩の上に立ち、足元には錨や網や貝、花にキャンドル、そしてマラカスが置かれている。そのななめ向かいには水のたっぷり入ったガラス瓶と花、十字架が置かれている。

マヨール広場のサンティシマ教会の前で、TAXI LUIS 001という木の札を貼った台車に座っているおじちゃんに話しかけられた。わたしたちが東京から来たのだと伝えると、昔は東京は江戸という町であり、1868年から東京になったのだと言い当て、日本の人口や面積を数字で的確に言い加えた。

このLUISさんは詩を書いているのだと5冊のノートを鞄から取り出して見せてくれた。既に1600もの世界各国についての詩を作ったといい、ページ数をきちんと振り分けているノートであった。そして、わたしたちの名前の入った詩をさらさらと書いてプレゼントをしてくれた。

話をしているうちに米国人旅行者の男性が話に加わった。米国は今年の9月からキューバ旅行の規制が以前に比べて緩くなり、来年にかけて更に緩めていくのだという。ただ未だ貿易取引はないため、キューバにある米国製の品物は別ルートを経て入ってきたのだろうと言った。

そんな彼とLUISさんが話をしていると、LUISさんが彼が住む米国ジョージア州の地元についての詩も書いていたことが分かり、わいわいと盛り上がる。

わたしたちは簡易の窯で焼かれたふっくらしたパンにたっぷりとチーズがのった、細いソーセージ、サルチチャのピザやほんのりと甘いプディングをつまみ食いしながら歩く。

途中、道行くおじちゃんに話しかけられ、自宅にあるという葉巻を見せてもらう。カストロが吸っているというCOHIBA、ゲバラの吸っていたというMONTE CRISTO、ROMEO Y JULIETAが無造作に置かれている。もちろんおじちゃんは、わたしたちに葉巻を買ってほしいのである。

トリニダーの街でもトップホテルの中の一つ国営Las Cuevasホテルは一昨日に行ったDisco Ayalaも運営している巨大国営ホテルであり、敷地内にいくつかの洞窟をもっている。そのうちの一つの洞窟、La Maravillosaは以前ディスコとして使われていたところである。

担当のYordanくんが流暢な英語でガイドをする。1851年に考古学者によって洞窟が発見され、80年から90年にかけてディスコとして利用されていた。中にはインディアンの使っていた魚、鳥、葉の文字が壁面にレプリカとして描かれている。そして当時のテーブルや椅子やバーカウンターやダンスフロアが今でも残り、石灰でおおわれている、ここもまたクレイジーなわくわくエンターテイメント会場であるのだ。

彼は自分がトリニダーの中では給料の良いほうであり、700~800CUCを一月に稼ぐことができたら理想だと言った。このホテルに泊まるキューバ人の数はホテル顧客数の1%に満たないという。そして、国の制度は複雑だともつぶやいた。その流暢な英語は地元キューバ人に教えてもらったのだというが、ネイティブ並みであった。

ギャラリーなどに立ち寄つつマヨール広場に戻ってくると、以前Las Cuevasホテルで演奏をしていたという、その名もLas CuevasというバンドがCasa de la Musicaの前のステージで演奏をしていた。

どのバンドマンもまるで普通のおじさんで、洋服もよれよれで立ち方もぴしりとしていなかったりする。その普通のおじさん集団が、以前一流ホテルで演奏し、今もこうして最高に格好よくのりのり音楽を平然と聴かせてくれるのがキューバだ。

しかもだれしもがそれを聞くことができ、子どもたちもそばで腰を振りながら踊る。営業精神はなく、持ち時間の半分以上は休憩時間で、ステージの上でおしゃべりをしたり、携帯をみたりしている。それでも、演奏が始まると、とたんに格好良すぎるのだ。

夕食は宿でJulioさんの作ってくれた鶏と南瓜のトマト煮にご飯、サラダにパイナップルとオレンジをいただく。この宿、カサ・パルティクラルの家はNeryさんの家であり、月150CUCを政府に支払っているという。この額はカサ・パルティクラルによって異なるそうなのだが、11月から3月までのハイシーズンを終えると、旅行者も減り、経営が大変なのだという。それでも来年からはさらに大きなお部屋を宿部屋にする計画なのだそう。

インターネットは高くて使えない、いつか家で使えるようになったら良いという。トリニダーでは外国人観光客を対象としているような価格の総じて高い店舗の片隅で、インターネットができる場所がある。経済がなかなかうまくまわらない国の現状が、ここにある。

地元の人と話をしても、観光業に従事している人々は生活必需品用に月に10CUCを政府から支給されるというが、全く足りないと聞く。金持ちもいれば、そうでない人もいる。車や家がある人もいれば、そうでない人もいて、それはどこの国でも同じだとつぶやく人もいる。

トリニダーの平均月収は200~300MNだといい、政府に満足をしていない人も多いと教えてくれた人もいて、そして一様に、そうつぶやいていることを政府に知られるのを恐れている様子であった。

わたしたちは夕食後にラン・カンチャンチャラという、サトウキビの蒸留酒であるアグラルデンテにレモン、蜂蜜、水を加えて氷を入れたカクテルを飲みに店に行く。24時間営業と看板が書かれたその店は昼間は混雑していたようであるが、23時を過ぎてわたしたちが訪ねたときには既に他に客はいなかった。

政治的見解は人によってさまざまであるが、経済的に厳しいと感じている人が多く、今年の市場経済の部分導入に関わる法改正がキューバを変えていくだろうということは確かなのである。