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Sakkieおじさんのいるパブ – Nelspruit, South Africa

今朝は宿のプールのあるテラスで、朝食をとる。ミルクコーヒーに野菜スティックとチーズの盛り合わせをいただく。

これからバスで南アフリカの首都プレトリアまで行き、そこでバスを乗り換えてボツワナの首都ハボロネまで向かうことにする。

タクシーに宿まで迎えに来てもらう。この辺りは車の交通量が少なく、流しのタクシーはつかまらない。

やってきたタクシーの上にはアラビア語のサインが書かれている。どうやらエジプトで使われていた車両がこちらに来たのだと思われる。何と書かれているのか尋ねても、分からない、と言う。

ネルスプリットからプレトリアまでのバスを出しているバス会社は3社ともに昼の便は満席だという。そこで、Intercape社の夜行バスでプレトリア、プレトリアから明日の昼ボツワナの首都ハボロネまで発つ便を予約する。

プレトリアまでは、バスのみならず、ミニバスという名の乗り合いタクシーも出ているが、その乗り場は「危ないです。」とIntercape社の窓口の女性は言う。「このターミナル付近のダウンタウンはどこも危険です。」

「弊社の夜行バスは安全だと保証できます。夜までお待ちになる間、身の回りの荷物には十分注意してください。今日は日曜日なので、弊社のオフィスも13時になったら閉まります。それまではこのオフィスにいていただいて構いません。その後はオフィス2階にあるパブに行くことをお勧めします。」

バス会社の女性は、そう続けた。

オフィスの2階にビリヤード場もあるPaddy’s Pubがある。ターミナル近くのスーパーマーケット、Shopriteに立ち寄り、食材を買い出しした後、パブで夜までの時間を過ごさせてもらうことにする。

昼食は、とうもろこしの粉などから作るPapに、スパイシーなチキンや牛肉のビーフ、野菜のセットを食べる。南アフリカでは、カレー風味の食事をよくいただく。

ドリンクは、バーでHUNTER’Sをオーダーする。アルコール4.5%の「サイダー」である。「サイダー」は、ここでは「砂糖の入ったアルコール飲料」を指すらしい。澄んだ黄色いサイダーは、フルーティーなスパークリングワインのようで、ごくりごくりと飲んでしまう。

地元の男性たちが時折入店してきてはビールを飲んでくつろいだり、ビリヤードを楽しんだりしている。カジュアルなTシャツを着てジーンズを穿いた男性もいれば、その隣で一緒にビールを飲んでいるのは、上着のシャツのボタンを大きく開けて、黒に白のストライプのパンツを穿き、ぴかりと光る黒い靴を履いた男性である。

中南米ではスペインリーグが放映されていることが多かったが、南アフリカに入ってから、イギリスのサッカーリーグがよく放映されている。今日はマンチェスター・ユナイテッドとアストン・ヴィラの試合である。従業員もテレビにくぎづけだ。

カウンターにいる店のおじさん、Sakkieさんに頼んで、アマルーラを作ってもらう。象も食べるというアマルーラの実のリキュールで、カルーアミルクのように甘くて、やさしい。

氷を出してグラスに入れて、アマルーラのリキュールを注いで、手でぐるんぐるんと回す。「はい、グラスは持っていくからね。席についてて良いよ。」そう言いながら、アマルーラのボトルと一緒に写真を撮ってみたら良いと、ボトルを持ってきてくれる。

周りの客もなにやら親切でフレンドリーなこと甚だしい。日本の地震について聞かれる。「日本は強い。何があっても、必ず立ち直る。」エチオピアから南アフリカに働きに来て20年という男性は、そう言った。

法律で、今日はパブを21時で閉めなければならないが、バスの時間の23時ころまで店の一角にいて良いよとSakkieさんは言う。「外は危ないからね。時間になったら俺がバスの乗り場まで連れていくから、安心しなさい。この界隈の人間は俺のことを知っているから、指一本触れさせたりしないんだ。問題ない。」

既に店内で買ったビールの瓶を持って幾人かがテラスで飲んでいる。そのうちに酔っ払った男性の声が大きくなっていく。「俺はモザンビークからやってきた。大きな鞄を背負ってこの階段を下がったら、盗人がやってきて、モノを盗んでいくよ。だからこの男にくっついていかなきゃいけない。下にいるセキュリティの周りは大丈夫。でも、その他の場所に行ってはいけない。」とSakkieさんの肩をつかんで、わたしたちに語りかける。Sakkieさんは、時折鋭い目つきを見せながら、それでも辛抱強くその客の興奮をなだめる。

他の客が帰ってからもSakkieさんはビールを片手にわたしたちのバスを一緒に待っていてくれた。インド人の奥さんと2度目の結婚をし、その奥さんは6年前に他界したという。家に帰っても一人だから、これから帰って飯を作るんだよ。

サファリに行っても、もうバファローも象にもびっくりしないが、ライオンとひょうだけは別もんだよ、ライオンなんておっかないから、思わず、車の窓をひょひょいと閉めたもんだよ。そう語りながら、歯のかけた顔におどけた表情をみせる。

ヨハネスブルグに40年住み、仕事でネルスプリットに移り住んできて12年、ネルスプリットも最近は治安が悪くてヨハネスブルグのようになってきたと嘆く。ドラッグが行き交ってるからね、でも俺はドラッグは大嫌いなんだ。酒も煙草もやるが、それで十分幸せだ。この店にドラッグを持ち込んだやつを見つけたら、とっとと追い払うんだ。

それでもヨハネスブルグはネルスプリットよりも40倍ほどヤバイのだと言って、口をすぼめてひゅーっと音を立てる。うちの家は生粋のアフリカーナー(南アフリカに最初に入植したオランダ系白人)なんだ。それを誇りにも思っている。それでも、もうヨハネスブルグには戻りたくないね。強盗も多いし、ひったくりも多い、でもこの国は良い国だよ。

バス発車予定時刻の23時15分ころ、暗い道の向こうからバスがやってきて、パブの前の道路に停まる。Sakkieさんは、わたしたちの荷物を抱えて、わたしたちがバスに乗るまで見送ってくれた。「写真を見て、俺のことを思い出してくれ。」

握手を交わした、その手は、とても大きくて、とてもあたたかかった。