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たくさんの善意と、こまぎれの情報で、旅がゆっくり進む国。 - Khartoum, Sudan

朝は、道ばたでいつものようにシャイを飲み、オレンジを買ってバスに乗り込む。

今日は、昨日閉まっていた観光庁に朝から向かう。政府機関なので、堅い雰囲気なのだろうとふんでいたら、担当の女性は、物腰柔らかく、古いぶ厚い本を取り出してスーダンについてを語り、しまいにはその本をあげます、と言う。そのうえ、チョコレートを手渡され、ハイビスカスティーを淹れるので飲んでいってくださいね、と言う。

昨日の警察署のようすとずいぶんと違うものだから、同じ政府の管理下とは思えない。

旅行許可書も撮影許可書も、とりあえずこの観光庁で取れるというので、ほっとする。地方を旅行する際に必要だと言う旅行許可書も、かつては取得に24時間かかったと聞いていたところをわずか5分ほどで済んだ。

しかもその許可書は、旅行許可書と撮影許可書が1枚になったものになっていた。かつてよりずいぶんと効率化されたのだという。こうして思いがけず、撮影許可書まで取得するにいたった。

それにしても、ビザ申請から滞在届に旅行許可書に撮影許可書。それぞれに何が違うのかよく分からない書類がいろいろと求められる国である。しかも、申請先がころころ変わり、担当者の言うこともてんでばらばらだ。

観光庁の建物を出たところで、観光庁のマネージャーと、大学教授だという男性と挨拶を交わすと、「コーヒーをごちそうしますから、木の下で一緒に飲みましょう」と誘われる。

マネージャーも物腰柔らかく、日本にも仕事で数回来たことがあると言う。天皇陛下と握手をしたこともあるというのだから、それくらいの地位の人なのだ。

そこからバスに乗って、一度スーク・アラビのターミナルへと戻る。途中、バスの車掌が下車したまま、運転手は車を発車させ、おいてきぼりにしてきてしまった。車掌は別のバスに乗って、バスに追いつき無事に帰還を果たしたものの、なかなか大変な仕事である。

この街の車や機械製品はたいてい日本か中国か韓国のもので、コカコーラやペプシ、セブンアップはあるが、スターバックスもマクドナルドもない。

ハルツームの北のカリマという町へ移動するためのバスのチケットを予約しに、改めて、教えてもらっていたアボ・アダムバスターミナルに向かうも、大きいと聞いていたターミナルは交通の便もよくなく閑散としていて、しかもカリマ行きバスは、Sajanaバスターミナルからしかないという。

こうして人々の指し示すカリマ行きバスのターミナル3か所はどれも間違っていて、4か所目のSajanaターミナルで、ようやくカリマ行きバスを見つけるにいたった。

Sajanaターミナルにたどり着くのもまた一苦労することになった。そこは、ターミナルと呼ばれているものの、道にバスが停車していて、バス会社のカウンターがぽつりと道沿いにあるくらいであったから、どうにも見つけづらい。

とにもかくにも、ようやくバスのチケットを手に入れる。

スーク・アラビのターミナルに戻り、そこに並ぶジューススタンドや食堂の一軒に入り、モパダというデザートに、マンゴーミルクシェイクをオーダーする。こういった甘いものを出す店には、女性同士の客や、デートふうの男女がいたりする。

隣の席にいた男性と挨拶を交わすと、男性は「スーダンは良くない国でしょう。」とやや遠慮がちに言う。謙虚なのか、自国を好きではないと話す人々が、スーダンには見事に多い。

でもスーダン人ほどにウェルカム感情をもち、親切心に満ちた国民もまた珍しい。そして、どことなく洗練されている。

バスに乗ってもたいてい満席で、補助席もフルに活用されているものだから、車掌への集金も手渡しリレーである。後ろのほうの人が下車するとなったら、補助席に座った人たちは一斉に立つ必要がある。それが、平然とこの国では、行われている。

ジューススタンドの看板には、むきむきレスラーが描かれている。

子どもたちがお金をちょうだいと目の前に立つ。

ペンギンが怪我をした絵がやたらとバスに貼られている。

ハルツームの近くに、世界最長級のナイル川の上流、ブルーナイルとホワイトナイルが合流する地点がある。その地点を見るために、ホワイト・ナイル橋へと向かう。

ハルツーム滞在中、バスのハブとなっているスーク・アラビとスタッド(スタジアム)のターミナルは幾度も往復した。またこのターミナルをうろうろとし、尋ねた人々の情報に右往左往させられながら、そして親切心に助けられながら、ホワイト・ナイル橋へと向かうバスへと乗り込む。

この国では、道を尋ねると、多くの人たちがその行き先までついてきてくれたり、あるいはバスが来るまで一緒に待っていてくれたりするのだ。

それと同時に、尋ねる人はほとんど英語を話さず、それでもなんとか答えを生み出そうとがんばるため、結果としてなんだか違う方向の答えが出てきたりするのである。

今回も、教えてもらって乗車したバスが間違っていたことが分かり、下車をして乗り換えたりしながら、無事にバスでホワイト・ナイル橋にたどり着く。「白い」ホワイト・ナイルと「青い」ブルー・ナイルの色は、変わらず、同じように濁り、同じように砂ぼこりで霞む空に包まれている。

橋を歩いて渡っていると、車の中からあちらこちらで「ニーハオ」と声をかけられる。ハルツームを歩いていても、たいてい「ニーハオ」か「チャイナ」である。

夕食は、宿の裏手にある食堂の並ぶ一角で、牛肉やじゃがいも、にんじん、ウリの入ったトマト煮、Khadar Mushakalに、サラダとパンのついたものを頼む。パンは、頼まなくても出てくる、なじみのいつものパンである。

食事を終えた後、冷房のよく効いたHorizonホテルのレストランで、ノンアルコールビール、Bavariaを飲む。どうやらインド系ホテルらしく、レストランの客の多くはインド人だ。

シエラレオネ出身で、現在ダルフールの国連機関で働いているという男性とも話をする。

かつてコソボでも働いていたという彼は、コソボのときには町はゴーストタウンと化し、仕事をしていても銃声音が聞こえてきたのと比べ、ダルフールでは、戦地と人々の暮らす地域が分かれていて、国連関係者が宿泊している施設は厳重なセキュリティで守られているのだと言った。

もう60歳になるというその人は、どうみても40歳くらいにしか見えない。

アルコールが法律で禁止されているこの国では、やはり表向きアルコールが販売されていることはないし、店で飲んでいる人を見かけることもない。

ただ、ひたすらに喉がかわくので、みな道ばたの無料水タンクから冷えた水をがぶ飲みしたり、木陰でシャイやコーヒーを嗜んだり、ジュース屋で氷の入ったハイビスカス・ティーやシャイール、ハーブのアラディップ、グングレスなどを飲んだり、あるいはペットボトルに入った炭酸飲料をごくりとやる、といった具合である。

とにかくスーダンに入ってから1日3リットルくらいの水のペットボトルを消費し、そのうえにシャイやコーヒーや炭酸飲料を何杯も飲んでいる。ただ、たいていの飲み物は砂糖がたっぷりと入り、日中に持ち歩く水のペットボトルはすぐにお湯へと変わるので、やはり冷房の入る室内で苦みのあるビール風味のドリンクをぐびぐびとするのは、スーダンドリンク生活の中では異質の時間なのである。