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きんきら街のバザールと、めらめらガスクレーター – Ashgabat / Derweze / Gas Crater, Turkmenistan

朝に起きてテレビをつけると、民族衣装を着た女性がナレーションをして、絨毯の織り方を説明している。

タルクーチカ・バザールへバスに乗っていく。街から少し離れれば、人々の住むマンションが立ち並び、世帯比で計算すると世界一の普及率ともいわれるパラボラアンテナがマンションの上にずらりと並んでいる。

市場の入口にも大統領が笑顔で手を振り上げた合成写真が掲げられている。

朝ごはんは食堂に入り、かりっと焼き上げられた挽肉とたまねぎの入ったサモサとチャイをオーダーする。まわりのトルクメニスタン人客たちもサモサを注文している人々が多いが、飲み物はチャイだったり、コーラや炭酸レモネードだったりする。

市場は広大で、いくつかの建物に分かれ、カラフルなイスラム帽や布地にスカーフ、緑のジャケットにお腹を自分でゴムでくくるどでかいズボンや、かつらに毛皮、トルクメニスタンノートやロシア語の古書などがずらりと並ぶ。動物市場はこの時間、数頭だけがぽつりと売買されていくだけだ。

どうやらかつてあった市場が建て替えでずいぶんときれいになっているのだが、その分活気が奪われているかのようだ。

宿に戻って、トルクメニスタンの見どころの一つと言われるガスクレーターへ向かうことにする。愛想のない向かいの商店に相変わらずお世話になり、もっちりとした砂糖がけのクッキーと、それからキンキンに冷えたヨーグルトを買い求める。大きな入れものに入ったヨーグルトがあまりに美味しいものだから、思わずもう一つ平らげる。そのうちに、昼休みだからもう営業は終わりです、と携帯電話を片手にジェスチャーで言われる。時計を見れば、表示されている昼休みの時間までまだ15分ほどある。

バスに乗ってGundogarバザールへ行き、乗り合いタクシーを探す。乗客が埋まるまで1時間半ほど待って16時ころにようやく出発となる。

乾いた赤い土の上に、草で網目のように仕切りをつくった畑があちらこちらに広がっていて、そこを耕す人がいる。あちらこちらでらくだや山羊がゆったりと歩き回り、ある時には道を横切るので、車はそれでストップする。検問を通り、進んでいく。

後ろの座席に座っている、ウズベキスタンのおじさん三人は、車が停まると走って商店に行ってウォッカを買い込み、そのうちにべろべろに酔っ払いはじめ、始終がはがはと笑って上機嫌、手拍子をしながら踊りだす。てっぷりとしたまんまるのお腹をシャツから出して、ウォッカで濡れた手でお腹をさする。運転手だって、顔を後ろに向けて話しながら運転しだすものだから、おっかない。コカコーラの空きペットボトルだって、窓の外にひょいと投げ捨てる。

道はアスファルトで覆われているが、がたりごとりと車は揺れる。ウォッカやひまわりの種、スナックにパンやらをもらい、それをもぐもぐとする。

途中、運転手の男性が車を停めて、ガスクレーターの一つに立ち寄ってくれる。そこは大きな穴に水が溜まっている場所だ。

今日の最終目的地であるガスクレーターは、火の燃え盛るところ。それは車の通る道にあるチャイハネを起点に砂漠の中を2時間ほど歩いたところにある。

20時になって車はようやくチャイハネに到着する。もう日が落ち始めている。チャイハネに荷物を置かせてもらい、東北東といわれるその方向へと進んでいくことにする。歩き始めるころにはもう日の沈んでいた砂漠は、あとは徐々に暗くなるばかりだ。でも、日のあるうちは暑すぎて歩けないので、日の落ちてから歩くのが丁度良い。

砂漠の中を歩くのだから、方向を失うことだってあるので、車の轍と時計の方位磁針を頼りにヘッドライトをつけて、進んでいく。てくてくと歩いていると、暗闇の中で、窓に光を点々とつけた列車ががたりごとりと通り過ぎ、空には星がすっと流れていく。

更に歩いていくと、向こうのほうに、赤いぼんやりとした光がうっすらと見えてくる。ガスクレーターが空を赤く染めているのだ。ぼんやりとしたその明かりを頼りにそちらのほうへと足を進める。足元はヘッドライトで照らす程度だ。

水を一人4リットルほど持ってきてはいるものの、今夜ガスクレーターの近くで眠り、明日チャイハネに帰るまで、水を手に入れられるところはない。大切に水を飲みながら、時折クッキーをほおばり黙々と歩く。極力喉が乾かないように、と考えるほどに、喉が渇いていく。

歩き続けて2時間ほど、3つ目の丘をあがると、暗闇の中に、オレンジ色に明るく燃える光が突然に目の前に現れる。まるで地獄絵のようで、思わず声をあげる。ごーと音をたてるその大きな穴にめらりめらりと光る炎に向かって、綱が垂れ下がっている。真ん中にはタイヤが落ちている。

このガスクレーター、旧ソ連時代の1971年、ガスを発掘しようと作業をしていたら、そこが陥没してしまい、ガスが漏れ出した。有毒なガスをそのまま放つわけにはいかず、火を放つことで二酸化炭素にして排出しているのだという。こうして火が燃え続け、二酸化炭素を放出し続けること約40年。この火を止めるには、トルクメニスタンの国家予算の半分ほどを使わなければならないとも聞いたことがあり、なかなか止められないのだ。

そんなわけで、乾いた砂漠のど真ん中で止められずに赤く無残に燃え続けるガスクレーターが、あの白と金の建物に噴水が街中に溢れる首都と同じ国に存在する。2011年、この国の経済成長率は世界第三位。

そのうちに月がクレーターの向こうからひょっこりと上がってきて、赤く色を染めている。山も赤く、空も赤い。さきほどの水の溜まったクレーターには周りにロープが張ってあったが、このガスクレーターにはロープも何もない。落ちたら命がないだけだ。近づくと、熱い。風が吹きつければ、その熱風に思わず引きさがる。空気ももわりとしている。

今晩はクレーターからやや距離を離したところにテントを張って眠ることにする。商店で買ってきた、お米の缶詰にパンをほおばる。お米の缶詰には、茶碗に白米がのった写真が描かれていて、思わず手にとったものだったが、ねちょりとした米粒にオイリーなツナが混ぜ合わさった缶だった。喉が渇かない食事で、良い。

テントで眠っている間も、クレーターは無駄に燃え続けている。