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滞在登録で連行される。 – Bukhara / Samarkand, Uzbekistan

イラン、テヘランのトルクメニスタン大使館の前で出会って、ここで偶然再会したオランダ人の自転車ライダーカップルは、朝から出発に向けて動いている。トルクメニスタンは砂漠が続いていたものの、ウズベキスタンに入って緑も人も増えて、自転車で旅をしやすいと言った。

わたしたちも今日はブハラを出てサマルカンドへとバスで向かう。バスは乗客が集まったら出発するといった具合で、時刻表はなく、そして朝しか、ない。7時ころから朝食をとり、支度を始める。

宿は、強気でちゃきちゃきした奥さん、マディナさんと、細くてか弱そうな旦那さん、イリオスさんが運営している。今日の朝食の準備はイリオスさんの当番だということで、パンや目玉焼き、ハムにフライドポテト、そして紅茶にスイカがテーブルに用意されている。

バスに間に合うように着々と支度を済ませて大きな鞄を背負い、中庭への階段を下りたところで、緑の制服を着た警察ががやがやと宿に押し入ってきた。

事情の分からないままに、パスポートと、宿の滞在登録の紙切れ、レギストラーツィアの提示が求められる。隣の警察官はビデオカメラを回し、わたしたちのようすやパスポートをじっくりと映していく。

警察官は言った。「この宿は制限以上のレギストラーツィアを発行しているため、問題が起きている。警察署まで来てください。」

たどたどしい英語ではあるが、そう伝えられる。滞在中の他の宿泊者たちもおとなしくしている。

マディナさんは宿にはいない様子で、イリオスさんもどこかに潜んでいる。宿のオーナーはどこにいったのか、と警察官はわたしたちに尋ねてくる。わたしたちが知らないと言うと、「なぜ知らない」と返してくる。とにもかくにも警察署に来なさいと言うので、パスポートと宿で発行された問題のレギストラーツィアの紙切れを渡したままに、言われる方向へと歩く。

わたしたちはサマルカンド行きのバスをつかまえるために急いでいることを伝えながら、警察官とテクテクと歩いていく。宿に何泊したのか、一泊いくらだったのか、大きな鞄の中には何が入っているのか、とやや柔らかいトーンで尋ねられる。

警察署だと言われていた場所は実際にはただのコピー屋で、警察官は、ちょっと待っててと言いながら、わたしたちのパスポートとレギストラーツィアのコピーをとった。そして言う。
「レギストラーツィアはお返しできません。わたしにこのままついてきてください。」

わたしたちは、再度バスに乗るために急いでいることを伝えた。すると警察官は近くに停まっていた車の中にいる別の警察官に相談し、ようやくパスポートとレギストラーツィアをポケットから取り出し、わたしたちに差し出した。

解放されたわたしたちは既にアルク城の近くまで歩いてきていたので、そのまま53番のバスに乗り込んでバスターミナルまで向かう。大きな鞄を背負ったわたしたちを見かねて、あちらこちらから席を譲られる。

15分ほどでバスターミナルに到着すると、日本人ですねと言いながら、サマルカンドまでのバスはないと連呼する人、道路が封鎖されているためにバスは通っていないからタクシーに乗りなさいという人、誰もが例外なく「バスはないからタクシーに乗りなさい。」と言う。それでもターミナルをぐるぐると回ってバスを探していると、タシケント行きと書かれたバスの周りに乗客らしき人々が集まっていた。このバスはサマルカンドを経由するはずだ。

乗客の一人にタシケントに行くのか、と聞くと、一人ははいと言い、一人はいいえと言う。そして続ける。「タシケント行きバスはないからタクシーに乗りなさい。」同じ方向に向かうはずのバスの乗客でさえ、なぜかわたしたちにタクシーを勧めてくる。

幾人かの乗客に聞いて回って、どうやらそのバスがサマルカンド経由でタシケントに行くということをようやく突き止めた。乗客が集まってからの出発なので、集まるまでじっと待つ。

その間に車内では、おしん、じゅもん、とワタシハアナタガダイスキデス、ヒロシマ、ナガサキと乗客から声をかけられる。車内の気温はぐんぐんと上がっていく。

そんなふうに待つこと1時間半ほど、バスの乗客が突然に下車を始めた。「バスは出発できないことになった」と手を交差して伝えられる。理由も分からないままにバスを降りてどうしたものかとうろうろしていると、ようやく一人話しの通じる男性が話しかけてくれた。

どうやらタシケントで小さな暴動が起きたためにタシケントへ行く全てのバスがキャンセルになったらしい。「でも、Navoi経由でならサマルカンド行きのバスがあるはずです。」とその男性は言った。そして付け加えるように言う。この国の警察は少しおかしいんです、小さな暴動なのにバスを全部止めてしまうんです。

何が真実なのかつかめない中に、こんなふうに会話がまともに通じる人が現れると、それだけでとびきり輝いて見える。

こうしてNavoi行きのミニバスに乗り込む。とうもろこし畑が広がり、牛や山羊が草を食んでいる。

2時間ほどでNavoiに到着した時点で既にくったりとしていて、商店に飛び込み、アプリコットのジュースを買い求め、サマルカンド行きの乗り合いバンを待つ。

灼熱のバンの中でもウズベキスタンの人たちは満面の笑顔で話し、葉たばこを袋から取り出す。

Navoiからまた2時間ほどでサマルカンドに到着して、青いタイルのモスクに心動かされつつも、とにもかくにも宿へと向かう。すると、あちらこちらで旅する日本人男性に出会う。今はお盆の時期で、普段は日本の会社で働く旅慣れた日本人男性が、休みを利用してウズベキスタンへひとっ飛び、一人旅をしにきている。

宿の中庭にある絨毯に腰かけ、サマルカンドパンやスイカにスナック、しょっぱいチーズボール、クルットにそれにチャイをいただく。

マディナさんとイリオスさんは今どこにいるのだろうと思う。