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イスラム世界のサマルカンド – Samarkand, Uzbekistan

朝は宿の中庭で、手づくりヨーグルトにチーズやサラミ、パンにゆで卵、それにネスカフェのコーヒーとチャイをいただく。パンには自家製のはちみちをたっぷりと塗っていただく。

バスに乗ってティムールの像まで行く。ここには「チンギス・ハーンは破壊し、ティムールは建設した」とも言われる、サマルカンドを復興させたティムールさんが、硬い表情で腰かけている。

そばにはティムールやその息子たちが眠る霊廟、グリ・アミール廟がある。細かなタイルが組み合わさり、しゅっとしぼんだような形のドームの下に、軟玉でつくられたティムールの墓がある。そう広くはない空間はムカルナスに囲まれて、墓石が並んでいる。わきで、若い女性が手のひらを上にして祈りを捧げている。

向かいには、ルハバッド廟があり、神秘主義者のシェイヒ・ブルハヌッディン・サガルジを祀っている。グリ・アミール廟と比べると、茶色い煉瓦のあっさりとしたつくりだが、墓石には細かな文字の装飾が施されている。

そこからしばらく歩いていけば、旧市街の中心、レギスタン広場にたどり着く。大きな広場を囲むように、学者でもあったウルグベクの建てた神学校、ウルグベク・メドレセや、それを模倣してつくられたという神学校、シェルドル・メドレセ、それにサマルカンドの主要礼拝所としても使われた神学校、ティラカリ・メドレセがどっしりと建っている。

シェルドル・メドレセの入口のアーチには、鹿を追うライオンと、その背には人の顔をした日輪が描かれている。偶像崇拝を否定するイスラム教では、動物や人を描くことはタブーとされているが、支配者が権力誇示のために、こうしたデザインを描いたそうで、建築家が責任をとって自殺したという話もあるという。

チョルスー・ギャラリーの入口にはなぜか警察官が数名いて、払わなくて良いはずの入場料を払えと言う。そのまま去ろうとすると、待て待て、じゃあ入場料要らないから入れ、と言う。入ってみると、ウズベキスタンの山や砂漠や建物を描いた絵や民族衣装を描いた絵が掛けられている。そして、その中に先ほどの警察官が描いた絵もあった。かつて大学で絵画を学んでいたものの、今は警官になったのだと言う。

そこからタシケント通りをてくてくと歩く。通りは新しく、両わきに土産物屋が並んでいる。子どもたちがナンを山盛りにした荷台に布をかけて運んでいく。眉をつなげたメークをする女性もいれば、子どもはいないのかとふいに尋ねてくる女性たちもいる。 

タシケント通りを少し奥に入ると、ナンを焼く工房がある。男性数名が黙々とナンを焼き上げていく。一人は生地を伸ばして真ん中を手でくぼませ、木と鉄でできた道具でぽんぽんと点をつけていき、それからゴマを上に塗る。働く男性の一人には、肩に火傷の痕があった。暑い日差しの下で、生地をのばして、窯の中に身体ごと入れてぺたりとはる。一ついただいていくことにする。窯から出たばかりのパンはあつあつで、外はこんがりと、中はもっちりとしていてボリュームがある。

近くの商店に入り、チェリージュースを買い求める。店内には、装飾のほどこされた深いえんじ色のベルベットの服に、赤い羽根のついた帽子をかぶった民族衣装を着る女性も買物に来ていた。

その広大さと建設したティムールの力の入れようで、さまざまな伝説をつくりだしたビビハニム・モスクや、地元の人々で賑わうシヤブ・バザール、ゾロアスター教の跡地に建てられたハズラティ・ヒズル・モスクを通って、夕暮れのアフラシャブの丘へとたどり着く。ここは、モンゴル軍が破壊するまで旧サマルカンドの町が築かれていたというが、今となってはすでに荒涼とした丘だ。茶けた草が傾く太陽の光を浴び、風に吹かれてそよそよとしている。

そばには、ティムールの妻や家族に親族、それに部下の将軍などを祀った霊廟が細い道をはさんでずらりと並ぶシャーヒズィンダ廟群がある。いくつも並ぶ霊廟の入口には、幾人かが集まって、手のひらを上にかざして祈りを捧げている。ある霊廟には、ナンと数枚の紙幣が供えられている。日も暮れて、静けさに包まれた霊廟がライトアップされた中、警察官と職員は、天国への階段と呼ばれる階段をあがったところにあるコシュ・グンバズ廟の前に絨毯をしいて長いテーブルを置き、夕食を楽しみ始める。

隣に位置する市民の墓地には、墓参りに来る人々が絶えない。

昼間の暑さがなかったかのように涼しい中、地元の人たちは街に繰り出し、アイスクリームを買ったり、ローラーブレードをはいて滑ったり、自転車をこいでいく若者たちが現れる。ビビハニム・モスクはその入口を緑のライトアップで照らしている。

夕食は、宿の近くの商店で買ったサマルカンドのビール、Pulsarとウクライナのイワシのトマト缶、それに宿のオーナーから差し入れのあったメロンも合わせていただく。どうやらウズベキスタンでは綿花油という、日本人が消化酵素をほとんどもっていない油がよく使われていることで、お腹をこわすことが多いらしい。そして、中国のほうから入ってきた旅人はお腹をこわしづらいのに比べて、わたしたちのように西からウズベキスタンに入った旅人はお腹をこわしやすいとも聞いた。それでも、控えめの食事に久しぶりのビールはすっかりおいしい。