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風が強くて立てないパタゴニア。 – El Chalten / Cerro Torre, Argentina

朝にテントの窓を開けると、雨が降っており、しんしんと冷えている。

エル・チャルテン周辺にはいくつかのトレッキングルートがある。宿に部屋をとって、雨が止むのを待たずに、今日はセロ・トーレまでトレッキングをして向かうことにする。

山小屋ふうの、土産物屋を併せたような小さなスーパーマーケットで、アーモンドとピーナッツ、ミルクやクッキーの入ったチョコレートやライスクリスピー、クラッカーにチョコレートクッキーを買い求める。

街の外れにある丘を上がり、フィッツ・ロイ川に沿って歩いていく。黄色や茶色く色づいた葉をつけた木々が立ち並んでいるかと思うと、途端に緑の葉をいっぱいにつけた森へと入っていく。

1時間ほど歩いたところにある展望台でも、セロ・トーレの山は霧がかかって、見えない。さらに30分ほど歩いたところで雨が止み、やがて雲が薄れていく。

先の尖ったセロ・トーレのふもとにあるトーレ氷河がゆっくりと姿を現し、その青い色は遠くからでも際立っている。

葉のない白い裸の木々の集まる大地を抜けると、苔が幹に生えた緑豊かな森に再び入る。そうかと思えば、また赤い実や黄色や白の花が咲いているほかは、荒涼とした土地が広がっていく。

ゆっくりと空は青く晴れていく。そしてセロ・トーレに近付くにつれ、大地は岩ばかりとなっていく。

強い風が吹きすさび、立つことすらままならなくなり、思わず頭を下げて、時には地面にしゃがみこみ、時にはぐっと脚に力を入れて踏みとどまり、時には一歩後退しながら、力づくで前に一歩一歩進む。

セロ・トーレ付近の尖峰に雲がひっかかり、太陽のさす空から小さな雨が降っている。トーレ氷河を向こうにのぞむトーレ湖には太陽に照らされた氷がいくつも浮かんでいる。強風で湖に波がたち、それが氷にあたり、しぶきをあげる。

氷は輝きながら、カランカランと軽やかな音を立てている。大きな氷の塊を一つ持ちあげてみる。ざらりとした荒い氷は途端に手の先をじんじんと凍らせる。

強い風の吹く中、かじかむ手でチョコレートやクラッカーを口に入れ、来た道を戻ることにする。強い風に、太い木々もなぎ倒されている。

セロ・トーレを少し離れれば、風はいくぶんか穏やかになり、雨も止む。川の向こうの山には虹がかかって見えた。

土に苔が生え、低い木がたつ砂利道を通っていると、どこか日本庭園を思い起こしたりもする。ただ、その後ろには青く光る氷河が冷たく広がっている。

エル・チャルテンの町を出たのが11時頃、戻ったときには18時頃になっていた。日は長い。

町には趣のある木造の小屋や新興住宅が入り混じっている。ところどころにタイヤのない車、窓がぺしゃんこに割られた車、ぼこぼこになった車が並んでいる。

宿の近くのスーパーマーケットに買出しに行く。町は再び雲が立ち込め、ひんやりとした風が吹いて肌が痛い。

夕食は、同じ宿の男の子が自炊をすると作ってくれたコンソメスープパスタに先ほどスーパーで買ってきたハムをのせ、パンにキャラメル味のDulce de lecheのペーストを塗ってほおばる。それに温かいミルクティーを合わせる。

宿のシャワーも部屋もあたたかく、旅人たちはキッチンに立って思い思いの料理をする。パタゴニアは今のところ、きわめて快適なアウトドア生活を旅人たちに提供している。