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2011年11月

軽やか入国と絶妙BGM – Los Angeles to Mexico City

朝は5時に起きてバスに乗り、ターミナルに向かう。
4番ゲートから出発だと書かれたチケットを握りしめ、
ちょうどその前で鞄の準備を整える。

けれど8時の出発予定時刻を20分程過ぎてもバスが来ない。
チケットを確認する男性に尋ねても「まだバスは来ていない。」と答えるばかりだ。
そしてこう付け加える。「メキシコは危ない。絶対に行かないほうが良い。俺は決して行かないよ。」

前日にセブンイレブンで買っておいたカリフォルニアロールをつまみながら、
30分後に再度チケット売り場の女性に尋ねてみて、
ようやく乗る予定であったバスはいつの間にやら
既に出発してしまったことを知ることとなる。
「でも9時にはまたメキシコシティ便が出るから、それに乗りなさい。」

9時頃、規則正しく出発したバスは高速道路に乗り、
「No USA Return」と書かれた看板を通り過ぎると、
13時頃にメキシコとの国境沿いの町、San Ysidroに到着する。

MEXICOと大きく赤い文字で書かれた白いゲートをバスがくぐり、そのうちに
2人の男性がバスにどこからともなく乗り込み、スペイン語を喋りながら、
帽子をかざして、寄付を求めた。

こうして席を立つことなく、軽やかに入国を果たしたバス乗客者一行は、
いつの間にかスペイン語に切り替わった町の看板を眺めながら、
13時半頃にはメキシコの町、ティファナに到着した。

米国からの72時間以内の短期滞在者は審査を必要としないため、
入国は素通りなのだ。
でも、もう米国には戻らないわたしたちにとっては
入国スタンプを押してもらうという重大な任務が待っている。

自ら入国スタンプが欲しいと積極的に求めて尋ね回り、
ようやく小さなイミグレーションのオフィスを見つける。
すべてスペイン語で書かれた申告表にとまどっていると、
入管担当の男性が用紙をぱっととって、残りを記入してくれた。

メキシコシティ行きのバスは17時まで無い、ということだったので、
Carne AsadaのTortasとQuesadillasを食べながら待つ。

バスは17時を30分程遅れてティファナを発つ。
備え付けのテレビからすぐに爆音でラテン風明るい音楽が流れ、
続いてディズニー映画が流れる。

辺りも暗くなり、うとうととしかけた頃にはっと目を覚ますと、
暗闇の中で浮かびだされたテレビが
ハチの飛ぶ様子やアリが食糧を運ぶ様子や弱肉強食ワールドを
爆音のまま流していた。
そこからようやくまた眠りに入る頃にまたはっと目を覚ますと、
今度は軍隊が銃で撃ち合う場面が流れていた。

絶妙な睡眠BGM。

こうしてバスは爆音を放ちながら、
暗闇を前へ前へと進んでいく。

我田引水

スポーツでは、左利きは重要な役割を果たす。
外国で人にものを書いてもらうと、左手で書く人が多い。
外国に左利きの人が多いのかどうかはわからないが、これは右手で書くように指導されることはないということ。
左手で文字を書いても、上手に書ければ、何も問題はない。

問題は、大人が右手で文字を書くように指導することを、当たり前と思っていることだと、僕は思う。

ロサンゼルスの、ある通り – Los Angeles, U.S.A.

ロサンゼルスの入国審査はシカゴのそれと比べるとあくまでフレンドリーで優しいもので、問題なく通ることができた。

わたしたちはhostel.comにて直前に予約をしたDuo Housingに向かうことにする。
空港からはSuper Shuttleや競合のPrime Timeといったバスが走っており、ドライバーに宿の名前と住所を伝えるだけだ。

日本からロサンゼルスに到着するときに見える景色は、まっすぐに続く道路と、粒のような車が見えてくるといった具合だが、町はまさに車ばかりで歩く人が大変に少ない。

宿に到着すると、ペドロという男の子が表に出てくれていて、
ざっと宿の説明をしてくれる。

そもそもロサンゼルスに来た目的は、
メキシコ行きのバスをつかまえるということだった。
ペドロは、メキシコに行くのならgreyhound社かamtrak社を使えば良いと言って、
greyhoundのバスターミナルの場所を
さくさくっとgoogle mapで調べてくれ、ポストイットにその場所を書いてくれた。

教えの通り、最寄りのWilshire-Whittierから720番のバスに乗り込むものの、どうも「短いルートの」720番バスに乗り込んでしまったらしい。

降ろされたダウンタウンから、
わたしたちは治安が悪いとされているバスターミナル付近を
歩かなくてはならなくなった。

どんどんと辺りの空気が荒んでいくのが分かる。
何かをつぶやいている人、寝そべっている人、
右と左のソックスが違う人、道端のゴミの一つ一つに興味をもつ人、
わたしたちに声をかけて最後に「気をつけな」とつぶやく人。

わたしたちは上半身を前のめりにしながら、
ぐんぐん歩く。ぐんぐんぐん。

20分程して、ようやくgreyhoundのターミナルに到着する。
アンジェラという女性が担当をしてくれた。
前客に対する愚痴をわたしたちにぶちまけつつ、
その編みこみをした髪を褒めると、嬉しそうに笑った。

メキシコは最近麻薬戦争により治安が悪くなっていると耳にしていた。
特に国境沿いのフアレス市の状況が著しく悪いという。
だから、フアレス近いエル・パソではなく、
明朝発ティファナ経由でメキシコに入れるチケットを購入した。
本数は十分にある。

帰りにダウンタウンの本屋に立ち寄りたいと思っていた。
場所を尋ねるために入ったスーパーの店員や客に聞いても、本屋の場所はよく分からないと言う。
しかし、その横にいた、人生、本屋とは無縁で生きてきたかと思われるファンキーな男性が、本屋がある場所を教えてくれた。

そこは6か月ほど前にできた古本の本屋というが、ソファに腰をかけて本を読めるスペースがあり、大型犬を連れて来店をしている人もいる。

本屋の男性がわたしたちが日本人であることが分かると、
「ムラカミハルキは知っているか?」と訊ねてきた。
ムラカミハルキは素晴らしい、この店でも1Q84を売っている、と
わたしたちをその本棚へ導いた。
そして今日から世界を旅することを伝えると、
周りの店員や客にそのことを伝え始め、
Jules Verneの「Around The World In Eighty Days」をわたしたちに勧めた。
本屋には日本についてのコーナーもあり、
芸者やポップカルチャー、版画や漫画、「菊と刀」の英訳版も置いてある。

ロサンゼルスは、思いのほか、寒かった。
宿が治安の良い韓国人街の中にあったため、
夜ご飯は温かな餅の入ったSoojebiと麺の入ったKalgooksooをいただくことにした。

英語が片言の韓国の女性が接客をしてくれた。
聞くと、90年代に夫の弟がロサンゼルスにいるために家族で渡米してきて
今は娘が3人いる、とのことだ。
暑かったり、寒かったりする韓国と比べて、
ロサンゼルスは気候が良くて過ごしやすい、と言った。

わたしたちが店を出るときに振り向いてカメラを向けると
彼女は大きく手をあげてピースをした。

一日一善

どこの国でも、子どもはかわいいもので、大人は太っている人が多い。
スーツケースが重すぎて持ち上がらない人がいるのも当たり前で、
今日は、スーツケースを三個、持ち上げてあげた。

この言葉は、何か善い事をやろうと心がけるのではなく、
一日の終わりに、自分が行った善い事を確認して、
少し心を幸せにするための言葉だと、僕は思う。

出発の日 – Japan

旅立ちの前はばたばたとするもので、出発をしてようやくほっと一息つける、という状態になるものだ。
会いたい友人や家族とゆっくりお寿司や蕎麦でもいただきながら感慨にふけようと思っていたら、それもかなわず、当日を迎えた。

なんとか荷造りを終え、比較的空いた成田空港に到着する。空は、晴れている。

そしてわたしたちはすかさずMild Sevenを購入しに行く。

JTが製造・販売するタバコであるが、こういった日本製たばこが海外での交渉事に役立つのだと、国外の過酷な状況下で仕事をしている友人が教えてくれたからだ。
「いざとなったら、紙幣と酒とタバコなんだ。あと、笑顔だよ。」
その内のタバコをまずは手に入れ、
18:50の予定より10分程遅れたシンガポール航空が日本を飛び発った。

1か月程前にJALに乗って
そのサービスの向上ぶりに日本風サービスの本気を感じて心底畏れ入った。

ビールもエビスビールまで用意され、
一食はモスのテリヤキバーガー手作りキットが提供された。

お手洗いには手書きの紙が、
草花の形に折られた折り紙と共に置かれている。
飛行時間、現地到着時間を記して、
ゆっくりとおつくろぎください、飲み物も希望があったらお気軽に、といった内容だ。

これ以上のサービスはなかなか見つからないだろうと思っていたら、
シンガポール航空のサービスは、なるほど定評があるものだった。
各自にメニューが配られ、ドリンク、食事、軽食の詳細が書かれている。

重要なビールのチョイスはタイガーとアサヒであり、
その他にシンガポールスリングも用意されている。

ジバンシィのアメニティで薄手のベージュの靴下と歯磨きセットも配られる。
CAがフライト中に積極的に顧客の声を聞き、
場合によっては写真撮影をしましょうかと声をかけている。

こうして、今度はシンガポールのサービスに心底畏れ入っている間に、
飛行機は13時頃、からりと太陽に照らされたロサンゼルスに順調に到着した。