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2012年03月

アルゼンチンから再びチリへ。 – El Calafate to the border with Chile

今日は朝の8時半にアルゼンチン側のエル・カラファテからチリ側のプエルト・ナタレス行きCootra社のバスが出るので、それまでにミルクコーヒーを飲みながら、支度を整える。

パタゴニアはアルゼンチンとチリをまたいでいて、ここで再びチリ側に戻ることになる。

今回エル・カラファテで泊まった宿、Hostel Huemulは創業8年目という。20年前は日本人旅行者が多かったが、最近はヨーロッパの旅行者が多いという。観光業も栄え、以前より住民は10倍に膨れ上がっている。宿のオーナー、Eduardoさんは、夏には旅行客を、冬が訪れると現地で働く人々に寝床を提供しているといった。

チリ行きバスに乗り込むと、入国に必要な書類が配られる。バナナをほおばりながら、茶けた大地を眺める。

1時過ぎにはアルゼンチンのイミグレーション・オフィスに到着する。風が強く、停車したバスは揺れている。

オフィスには行方不明者の貼り紙が貼られている。
こうして再びチリへ入国となる。

氷河の中の音 – El Calafate / Parque Nacional Los Glaciares (Glaciar Perito Moreno), Argentina

エル・カラファテの町の近くに、南極やグリーンランドに次ぐ氷河面積のあるロス・グラシアレス国立公園がある。世界遺産にも登録されていて、大きなものだけでも47の氷河がある。

バスで1時間ほどのペリト・モレノ氷河へ行くことにする。朝にバスターミナルのCAL TUR社のカウンターでチケットを購入し、バスに乗り込む。パンをかじりながら窓の外を眺めること1時間と少し、突然湖の上に60m近い高さの氷河が見えてくる。

表面は鋭くとがり、ところどころソーダのように青白く光り、亀裂が入っている箇所もある。氷河によって削られた岩石や土砂などが堆積したモレーンが、黒い筋になって斜めに模様を描いている。

はたから見ると、時折氷の塊が崩れ落ちるほかはずっしりとして動いていないように見えるものの、耳をすませば、氷河の中からとてつもなく大きな動く力を、音として感じ取る。

この氷河は、氷の氷結と融解のサイクルが短く、活発に動いているのだという。大きな氷河の内側から荒れた波のような音がするかと思えば、メキメキと大きな音がし、どこかでパーンと氷に亀裂が入った音がする。

風が強く吹けば、その音は、氷河の音をもかき消す。

時折氷塊が崩落すると、白いしぶきがあがり、やがて湖に波がたち、円を描いていく。太陽の光を浴びて明るく白く光を放つ氷河も、雲がかかれば、途端に冷たい灰色へと変わり、青白い光はよりその強さを増しているかのように見える。

昼食は、トゲのある低い木、カラファテの実のリキュールをクリームにたらしてコーヒーにのせたCafe Nativosとフランスパン、チョコレートビスケットを食べる。

氷河の前の湖には時折ボートが近づき、空には鳥が飛んでいく。大きな氷河の中に蓄積された時間と力を感じながら、冷たい風に吹かれる。

16時のバスでエル・カラファテの町へと戻れば、まだまだ日の入りまでは暖かい。町で一番大きいというスーパーマーケット、La Anonimaに入って食材を買う。

夕食はナポリタンのパスタにチーズ、ポテトサラダ、それにフランスパンを添えていただく。それにQuilmesビールをいただく。

やはりここの宿もあたたかい。パタゴニアはここでもまた快適な旅を提供している。

尖ったフィッツ・ロイ山 – El Chalten / Monte Fitz Roy, Argentina

朝起きて宿を出ると、町からフィッツ・ロイ山の尖峰が見える。今日は往復8時間と言われる、フィッツ・ロイ直下のロス・トレス湖までトレッキングに行く。

18時半に次の目的地、エル・カラファテ行きのバスがターミナルから出るので、それに間に合わせたい。

朝の8時30分頃、トマトとパンをかじりながら歩き始める。空も晴れ、朝のきりりとした空気が町を包んでいる。

サン・マルティン通りを歩き、登山口に入る。馬が草を食むのを眺めながら、丘陵地帯を川沿いに歩いていく。

森の中を歩き、展望台までたどり着くと、雪をかぶった険しいフィッツ・ロイの峰を見渡すことができる。強い気流がぶつかり、山頂から白い煙をはいているように見えたことから、先住民の人々はこの山を「エル・チャルテン(煙をはく山)」と呼んでいたのだそう。

穀物の入ったビスケットをかじりながら、さらに奥へと入っていく。フィッツ・ロイや、ぴたりと動きが止まっているように思える氷河を眺めながら、進む。

山々が池に映し出されている。黄色く色を染めた草が辺り一面に広がり、風に揺れている。川は冷たく、澄んでいる。

ここもまた、低い木が生えるエリアを抜ければ、緑あふれる森に入り、そうかと思えば、砂利の広がる日本庭園ふうエリアに、湿地に草の生えた尾瀬ふうエリアといった具合に、場所ごとに全く違った景色が広がっている。

キャンプ場を過ぎてしばらく歩くと、そこから一気に、時折水の流れる砂利道を上まで上がっていくことになる。そのきつい上がり道からは、目的地であるフィッツ・ロイが、見えない。

1時間で上がれるところを1時間半ほどかけて、一歩一歩上がっていく。大きな丘を登りつめていくと、やがてフィッツ・ロイの峰がひょっこりと見えてくる。

上がりきると、目の前に、淡い緑の色をしたロス・トレス湖、その向こうに氷河と切り立った山々がそびえ立つ。湖のほとりをくるりと回ると、はるか下に、スシア湖も見えてくる。

パンを食べたりクッキーを食べたりとのんびりしていたら、時刻はもう14時半になろうとしていた。バスの時刻まであと4時間しかない。行きは4時間半かかっている。帰りは下りが多いとはいえ、一度宿に戻って荷造りなどもしなければならない。

急いで帰る。

1時間半かけて上がった山の上からは、右手にマドレ湖、イーハ湖、カプリ湖が青く水を湛えているのが見える。

砂利道をぽんぽんと下がり、前のめりになって歩き進める。帰りは、カプリ湖のほとりを通ることにする。澄んだ水面がゆらりゆらりと風に揺れる湖の向こうに、フィッツ・ロイの山が小さくなっていく。

それからも速度を緩めることなく、てくてくと歩いていく。息を切らしながら、やがてエル・チャルテンの町が突然に視界に入れば、思わず声をあげる。

気がついてみれば、町に戻ってきたのはまだ17時だった。2時間半で帰ってこれたことになる。

そんなわけで、町に着いたら、途端にくったりとしてしまう。アスファルトが固く、脚がじんじんと痛む。よたよたとスーパーまで歩き、パンや林檎、チーズと牛乳や水を買い求める。パタゴニア地方へは、ブエノス・アイレスから飛行機で物資が運ばれることも多く、3割ほど値の高い商品も少なくない。

こうしてバスの出発時間に間に合い、チーズとパン、林檎をかじりながら、次の町、エル・カラファテへと向かう。バスの窓から、遥か遠くにフィッツ・ロイが見える。やがて夕日が丘をオレンジ色に照らしながら、バスは3時間ほど走る。

エル・カラファテの町は、先ほどのエル・チャルテンよりも少し大きく、有名ブランドのスポーツ用品店も並び、カジノもある。既に23時になろうとする頃にもレストランに客が入っている。

寒い夜、ろうそくのともった屋外で、お洒落をしてワインを片手に語らう人々もいる町だ。

風が強くて立てないパタゴニア。 – El Chalten / Cerro Torre, Argentina

朝にテントの窓を開けると、雨が降っており、しんしんと冷えている。

エル・チャルテン周辺にはいくつかのトレッキングルートがある。宿に部屋をとって、雨が止むのを待たずに、今日はセロ・トーレまでトレッキングをして向かうことにする。

山小屋ふうの、土産物屋を併せたような小さなスーパーマーケットで、アーモンドとピーナッツ、ミルクやクッキーの入ったチョコレートやライスクリスピー、クラッカーにチョコレートクッキーを買い求める。

街の外れにある丘を上がり、フィッツ・ロイ川に沿って歩いていく。黄色や茶色く色づいた葉をつけた木々が立ち並んでいるかと思うと、途端に緑の葉をいっぱいにつけた森へと入っていく。

1時間ほど歩いたところにある展望台でも、セロ・トーレの山は霧がかかって、見えない。さらに30分ほど歩いたところで雨が止み、やがて雲が薄れていく。

先の尖ったセロ・トーレのふもとにあるトーレ氷河がゆっくりと姿を現し、その青い色は遠くからでも際立っている。

葉のない白い裸の木々の集まる大地を抜けると、苔が幹に生えた緑豊かな森に再び入る。そうかと思えば、また赤い実や黄色や白の花が咲いているほかは、荒涼とした土地が広がっていく。

ゆっくりと空は青く晴れていく。そしてセロ・トーレに近付くにつれ、大地は岩ばかりとなっていく。

強い風が吹きすさび、立つことすらままならなくなり、思わず頭を下げて、時には地面にしゃがみこみ、時にはぐっと脚に力を入れて踏みとどまり、時には一歩後退しながら、力づくで前に一歩一歩進む。

セロ・トーレ付近の尖峰に雲がひっかかり、太陽のさす空から小さな雨が降っている。トーレ氷河を向こうにのぞむトーレ湖には太陽に照らされた氷がいくつも浮かんでいる。強風で湖に波がたち、それが氷にあたり、しぶきをあげる。

氷は輝きながら、カランカランと軽やかな音を立てている。大きな氷の塊を一つ持ちあげてみる。ざらりとした荒い氷は途端に手の先をじんじんと凍らせる。

強い風の吹く中、かじかむ手でチョコレートやクラッカーを口に入れ、来た道を戻ることにする。強い風に、太い木々もなぎ倒されている。

セロ・トーレを少し離れれば、風はいくぶんか穏やかになり、雨も止む。川の向こうの山には虹がかかって見えた。

土に苔が生え、低い木がたつ砂利道を通っていると、どこか日本庭園を思い起こしたりもする。ただ、その後ろには青く光る氷河が冷たく広がっている。

エル・チャルテンの町を出たのが11時頃、戻ったときには18時頃になっていた。日は長い。

町には趣のある木造の小屋や新興住宅が入り混じっている。ところどころにタイヤのない車、窓がぺしゃんこに割られた車、ぼこぼこになった車が並んでいる。

宿の近くのスーパーマーケットに買出しに行く。町は再び雲が立ち込め、ひんやりとした風が吹いて肌が痛い。

夕食は、同じ宿の男の子が自炊をすると作ってくれたコンソメスープパスタに先ほどスーパーで買ってきたハムをのせ、パンにキャラメル味のDulce de lecheのペーストを塗ってほおばる。それに温かいミルクティーを合わせる。

宿のシャワーも部屋もあたたかく、旅人たちはキッチンに立って思い思いの料理をする。パタゴニアは今のところ、きわめて快適なアウトドア生活を旅人たちに提供している。

バスがとまる。 - San Carlos de Bariloche to El Chalten, Argentina

朝起きてみると、窓の外に湖が広がり、空は朝日で赤く染まって、右半分の白い月が浮かんでいる。

朝食は、砂糖のかかったクッキーやクラッカーにパイが配られ、マテ茶や紅茶のティーバッグもついたセットになっている。バスの後方にある機械から熱湯をカップに入れて、マテ茶を飲む。

乾燥した広い大地をバスはただひたすらに南へと向かう。途中バスが停車をした際、売店に昼食を買いに立ち寄る。風が強い。パタゴニアは風の大地、なのである。

バウンドケーキをほおばり、喉がかわいたので、オレンジのファンタジュースも合わせてぐびぐびと飲む。

時折風変りな形の岩が見えるほかは、茶色く乾いた大地が広がるのみだ。

17時半を回ったころバスが停まった。バッテリーに問題が生じたという。夏の終わりの今の時期は日が長く、太陽はまだ高い位置にある。

乗客は一度みな降りて、バスを後ろへ押してみたりする。それでも問題は解決せずにバス会社の一人がジープに乗って、どこかの町へと助けを求めに行った。

やがて、太陽は赤く色を変えて沈んでいく。

3時間ほどしたとき、藁を積んだ通りがかりの車から線をつなげて、復旧を遂げる。

バスに無事にエンジンがかかったときには車内に拍手が起こる。助けを求めに行ったバス会社の男性がバスに戻ってきたときにもまた拍手が起こり、みな口々に礼を伝える。

暗闇になった道を更にバスは進み続け、目的地のエル・チャルテンに到着するころには夜中の2時になっていた。

ターミナルでは夜中発のバスを待っている人々が寝袋で寝ている。思っていたよりも寒くなく、風も強くない。寝ている人々に倣って、ターミナルにテントを張り、そこで夜を明かすことにする。

途中バスが到着しては賑やかになり、何やらテントの外に犬の鳴き声が聞こえる。

月は低く浮かんでいる。