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アルメニア教会と、日本の太陽 – Yerevan / Echimiadzin, Armenia

夜中の12時半すぎに列車は停車し、ビザが必要な人々は下車するように指示されてホームに降り立つと、パスポートが回収される。駅の中央には煌々と明かりをつけた建物があり、そこに乗客10人程度が列をつくっている。

順番に呼び出され、アルメニア語で書かれたビザ代のレシートだという紙の2か所にサインをするよう求められた。人によっては滞在期間を再確認されているが、わたしたちは何も聞かれずに、ただその用紙にサインをするように言われる。

パスポートを読み込み、パソコンで数か所を記入して、その場でブランクのビザシールをはがして印刷機に入れて、印刷ボタンを押すと、ピーとビザが出来上がる。

ビザ代を支払うと、今度は別室に行くように指示される。そこにはパソコンが何台も並び、テレビからは派手なMVが流れていて、インターネットカフェのような雰囲気だ。一人の職員が座り、更にパソコンで何かを記入し、さきほどのビザの上にボンとスタンプを押して手続き終了。

手続きが終われば各自それぞれ列車に戻る。列車の中でもビザ不要の人々の入国手続きが小さなパソコンを使って行われていた。

こうして1時を過ぎて列車はまたガタリゴトリと進んでいく。

朝にゴンゴンと扉が叩かれて起こされる。辺りは緑に包まれていて、7時半にもなるころ、アルメニアのエレバンに到着した。駅のターミナルにはWifiもとんでいる。待ち合い室に座って、昨夜トビリシ駅の近くのパン屋で買った砂糖をまぶしたもっちりパンとピロシキをほおばる。

今日、アルメニアは水かけ祭りで、民泊をさせてもらうセルゲイさん家の子どもたちもおおはしゃぎで水をかけてくる。

ううう。

今日が水かけ祭りだなんて知らなかった。

こうして水かけから逃れるべく、そそくさと首都のエレバンを抜けだし、エチミアジンの町へ行くことにする。びくびくしながら、バケツを持つ子どもたちの合間を歩き、ミニバスでエチミアジン行きバスの発着するターミナルへ向かう。

今日ばかりは無差別水かけが許される日らしいので、こちらとしてはたまったものではない。常に水をかけられないか、きょろきょろとしていたのにもかかわらず、バスのターミナルでチン・チャン・チョンと遠くのほうで言われたかと思うと、ばしゃりと背後からバケツいっぱいの水をかけられた。びしょぬれだ。

ううう。

バスに乗り込んだ隣の男性が「フクシマ」「サムライ」、そして「ジュードー」と声をかけてくる。バスの中でも開いた窓の向こうから水鉄砲をしかけてくるものだから、心は一向に休まらない。

エチミアジンの町には、アルメニア教会の総本山、エチミアジン大聖堂がある。濡れたままにバスに乗ること40分ほどでエチミアジンに到着する。

大聖堂からは、賛美歌が漏れ聞こえている。中に入ると、前方には聖職者が赤や黒の衣装をまとっていて、脇には聖歌隊がいる。信者たちが太い列を成して前を向き、その後ろにろうそくを手にしている人々がいる。辺りは香炉の煙に包まれ、ちょうどミサが終わりを迎えようとしているところで、神父たちが中央を通って後ろの出口から退場をしていく。そのときに聖水を人々にかけていくものだから、また服は濡れるのである。

人々は聖書と十字架にキスをして額をつけていく。そして黄色のろうそくに次々と火を灯して祈りを捧げていく。

黒い聖職衣を着て、とんがり帽子をかぶった神父たちはどうにもフレンドリーなようすで、さながら街の相談役のように見える。美人を交替に肩を組んで写真撮影をして、人々の話しに耳を傾け、話をする。

大聖堂には宝物館もあり、古い聖書や杖、十字架に帽子や衣装、そしてキリストの脇を刺したといわれているロンギヌスの槍などが展示されている。ノアの箱船の破片といわれているものは現在別の場所で展示中のため、宝物館には写真が置かれている。

敷地内にはカトリコス座や本屋、神学校もあり、グレーや黒の長い丈のコートを着た男性たちが建物内から一斉に出てくる。

町の商店でクッキーとはちみつパンを買ってそれをつまみながら、バスに乗ってエレバンまで帰る。

今日までエレバンでは、ゴールデン・アプリコット・エレバン国際映画祭が開かれていて、15時からは映画「太陽」が上映されるという。日本での公開が難しいといわれていた昭和天皇を描いた映画で、エレバンに到着してすぐにバスに乗ってバタバタとモスクワシネマへ向かってみる。

大きな映画館に観客はわずかにしかいない。地元の人々がほとんどだ。エレバンの映画館に、昭和天皇の心の揺らぎが広がっている。上映が終わると、ぱらりぱらりと拍手がおこった。

映画館前や共和国広場の噴水の周りには、バケツを持った若者たちが集まり、多くの人々がびしょぬれで歩いている。大きく迂回をしながら、おそるおそるきょろりきょろりと道を歩く。

エレバンの地下鉄もグルジアのトビリシと同じようなつくりだ。3列のエスカレーターで地下まで下がり、やや冷房の効いた薄暗いプラットフォームがある。それでも、グルジアの地下鉄にある陽気な雰囲気がアルメニアの地下鉄には感じられない。駅の表記にはロシア語が併記されている。グルジアは本気でヨーロッパに近づこうとしていたのだろう。

グルジア、アルメニアと、なかなか手ごろなホテルが不足しているものだから、民泊という選択肢が出てくる。アルメニアのエレバンでも、セルゲイさんの家にお邪魔をしている。家にはシャワーがないので、近くのシャワー屋まで15分ほどかけて歩いていく。古びた建物がややおどろおどろしい雰囲気を作り出しているものの、中はそれぞれ鍵のかかる個室になっていて、脱衣所とシャワールームが分かれ、広々としていて悪くない。

こうしてすっきりシャワーを浴びた帰りがけに、ビルの上からまたバケツの水をぶっかけられて、水浸しになった。寒い。

そんな寒いままの身体で、近くの食堂にビールを飲みに行って、ザリガニをつまむことにする。ザリガニを鍋に入れてローリエとともにゆがいているのだという。おかげで小ぶりで真っ赤な殻をつけたザリガニが、香り高い。あまり身のないそのザリガニをミソまでちゅーちゅーと吸いながら、合わせて注文した生ビールをぐびぐびとする。

その後セルゲイさんの家に戻り、野菜の魚のトマトソースパスタと、カマンベールにザクロワインをいただく。美味しいお酒の夜。