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服を着て、スカーフを巻いて入るカスピ海 – Rasht / Ramsar, Iran

夜中の1時45分ごろにバスは一度停まって休憩をする。こんな時間だというのに、ラマダンで空腹の男性たちはパンやら肉やらを食べていく。

ラシュトに到着したのが4時半ころ、タクシーに乗って宿へと向かう。

日も上がった宿の近くのスイーツ屋に、甘いパンを見つけて買い求める。その店でもスイーツやパンは売るけれど、ジュースメーカーは機械に新聞紙が貼られている。トルコのイラン領事館でラマダンについて尋ねてみたときは、大きな街ではレストランは閉まっているけど、小さな町では大丈夫ですよとほほえみながら言われた。でも、地方に来ても、テヘランと状況は変わりない。

今日は、カスピ海まで泳ぎにラームサルという町に行く。ラームサル行きのバス乗り場を探していると、いろいろな人に話しかけられる。タンカーの船乗員だという男性は、2週間仕事で2週間はこうして休みをとっているのだという。彼はタクシーに乗ってわたしたちをバスターミナルまで送ってくれ、商店に入って冷えた水のボトルを買い、その後にラームサルまでのバスの代金を払うと言った。

バスに乗り込み、さきほど買った甘いふわふわのパンと白い砂糖のついたパンをどうにもこそこそと外を向いて食べる。旅行者はラマダン中に食べても良いと言われても、なんとも申し訳ない気分である。

ラシュトから2時間ほど走って到着したラームサルのバスターミナルからカスピ海まではまだ距離があったので、ヒッチハイクで向かう。二人のおじいさんがわたしたちを運んでくれた。でも、運んでくれた先のカスピ海の沿岸には、さびれた遊園地があり、はたまた日本の田舎にあるような、しんとした、ふぐの置物などを売る店が佇んでいる。その辺りは水が淀んでいて、モーターボート屋があり、釣りをしている人もいるが、泳ぐことはできないという。

そばにあった一軒のホテルの男性に聞くと、ビーチはこの先3キロほどいった、サヘール・タライにあるという。再びヒッチハイクを試みて、運んでもらうことにする。

ビーチには右手と左手に目張りがしてあり、それぞれ杭にビニールシートがかけられていた。右手が女性専用、左手が男性専用ビーチだという。船が浮かび、軍服を着た男性が砂浜を監視していて、どうにもビーチらしくない。

真ん中の共有の砂浜を経て女性専用ビーチに行くと、上下洋服に頭にはヒジャブをしたままの女性たちがカスピ海に浮かんでいる。人によっては靴のまま湖に入っていく。傍から見ても楽しげがない。

それでも海の中に入ってみると、一緒に泳ぎましょうと言いながらじゃぶじゃぶと手を回し始める、なにやらにこにこと元気活発な女性たちがそこにいた。

女性がイランで泳ぐときには着替えが厄介だ。それも全身真っ黒の女性たちが、手慣れたふうに着替えを手伝ってくれる。

左手の男性専用ビーチの海辺には、服を着た女性は入ることができる。あるとっぷりとした男性二人は海に腰掛け貝を拾い、ある男性たちはボール投げをして遊び、ある男性たちはじゃばじゃばと泳いでいく。男性は上半身裸の水着姿。女の子どもたちは服を着たままに男性専用ビーチに入っている。

カスピ海は、海水の3分の1ほどの塩分しかないので、しょっぱくなく、湖を出てもわりあいにさっぱりとしている。

そこから近くのラームサル温泉に浸かりに行くことにする。ビーチから温泉まで、今度はビーチで話しかけられた男性家族が車で連れて行ってくれるという。ラマダン中は地元の人々は海水浴はできないのだけれど、その家族のような旅行者は泳いで良いんです、と言った。35歳と31歳の夫婦に4歳の男の子と3か月の女の子がいる。   

こうして温泉にらくらくと到着する。敷地内に入ると硫黄の香りがして、源泉を湛えた石は緑色に変色している。浴室は入口から男女に分かれ、タイル張りの個室になっている。個室には一つ一つに湯船があり、温泉と水の蛇口があって浴槽にお湯を溜めていく。シャワーもなく、浴槽の淵に桶が二つ置かれている。

空気がこもると危ないので、扉は開けっぱなしにしておいてくださいね、と念を押される。そのうちに個室は、ほとんど無色の温泉が浴槽にひたひたとなり、硫黄の香りに包まれる。温泉を出たら、山に太陽が沈もうとしていた。

温泉からバスターミナルまでも行き方が分からずにいると、パトカーが停まって、途中まで乗っていきなさい、と言う。こうして大きな通りまで送ってくれ、近くにあった商店で、イラン製のトロピカルフルーツ味のノンアルコールのモルト飲料を買い求める。モルト飲料といっても、炭酸ジュースにほど近い。

そこから乗り合いタクシーを乗り継ぎ、ラシュト行きバスが通過すると周りの人々が口々に言う場所で降ろしてもらう。来るかどうか分からないバスを待つことわずかに15分ほどで、確かにラシュト行きバスがやってきた。

冷房ががんがんときいたバスで、水のサービスもある。

バスがラシュトのターミナルに到着すると、一緒にバスに乗っていた大学生の女の子が、迎えに来ていたお父さんの車で送りますといって、街の中心のショハダー広場まで送ってくれた。大学で林業を学んでいるという学生で、将来は学者になりたいのだという。英語が好きで独学で勉強しているというその言葉は発音もとてもきれいなものだった。

ラマダン中は断食をしているそうで、今日も夕ご飯はビスケットで軽くすませたのだといって、どうぞとビスケットをわたしたちに差し出す。

こうしてショハダー広場に到着すると、日の暮れたその場所には、屋台の焼き鳥屋が開かれ、男性たちが集まっていた。街のあちらこちらでこうした焼き鳥屋が繁盛し、昼間は閉まっていたアイスクリームやジューススタンド屋も煌々と明かりをつけて、店先にアイスクリームのコーンをにょきにょきとのばし、ジュースメーカーをぐるぐると回して、元気に営業中だった。

いくつかのレストランはやはりラマダン中は夜になっても扉を閉ざしたままであったものの、マリオの看板を灯したレストランが営業しているというので、早速に入ってみる。

カスピ海はキャビアが有名だというが、それは全て輸出されているというので、この街特有の食事は、地元のオリーブなどを活かしたものなのだそう。

そこで、郷土料理であるというミールザー・ガーセミーやバター・ライス、野菜の塩漬け、ウォルナッツペーストに包まれたオリーブ、舌がややぴりりとするチーズとヨーグルトの中間のようなものにきゅうりをオーダーする。生たまねぎやパンがついてくる。

どれも塩の味がつよかったり、辛かったりするものだからミルキーなバターののったライスやパンがよくすすむ。

12時半を回って外を出ると、さきほど出ていなかった焼き鳥屋台がここにも出現し、男性客で賑わっていた。